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1 人間工場

 正解は一つではない。この事実を飲み込むまでに人類はとても長い時間をかけ、たくさんの間違いを犯した。X^2=1の場合、Xの値は1と-1になる。この数学的事実は人類の歴史で見ればかなり早い段階で理解していたが、現実として受け入れるのは直感が許さなかった。

 はるか昔、地動説と天動説で争っていた時代があった。一時期は天動説が優勢だった。なぜなら地球に立っていれば地面は不動で太陽は空から空へ上り下りしているようにしか見えないからだ。しかしその後は地動説が優勢になった。さらにもう少し時代が進んで地球も太陽も動いていることを人類は飲み込んだ。結局のところ地動か天道かではなく地動天道であったわけだ。現実は世界が二つ以上成立するだけのことだった。

 人間は明るい方が良いのか、暗い方が良いのか。賢い方が良いのか、愚かな方が良いのか。誠実な方が良いのか、反社会的な方が良いのか。答えはどちらでもなく全てだ。一人の人間に全ての要素が含まれている。全ての人間は何者にもなれるようにできているが、その可能性が発揮されるかどうかは生まれた後に決まる。可能性が高いか低いかも設計されている。この工場で作られる人間を設計するのがユフの仕事だ。

 ユフは滅菌パックに入った月齢一か月の子どもたちをながめる。パックの一つ一つにはIDが付与されていて、遺伝子情報や、パック内の温度、生体反応、栄養投与の記録を見ることができる。今日は選別の日で、目標値に満たなかったり生育が悪い子どもを処分する。一か月ごとに半分ずつ減らして、半年後からは十分の一ずつ減らし、一年半後に一〇〇人の子どもを出荷する計画が立てられている。統計上、失敗する子どもはほぼ分かっている。そういう子どもは簡単に弾けるが、難しいのは良いか悪いかの判断がつかない子どもだ。良い子どもは残す。悪い子どもは処分する。これは誰にでもできるが、その間にいる子どもをどう選別するかでユフはいつも頭を悩ませている。

 工場長がユフを検索してから声をかけてくる。

工場長:主任、ずいぶん悩んでいるな
ユフ:どうもウサノモデルは先々で良くない気がするんですよね
工場長:三日前には養育舎に出荷できた。数値も既存モデルと比べて七%良くなっている ユフ:それはそうなんですが‥‥
工場長:おいおい、悩みをちゃんと言語化してくれ。抽象的な悩みはいつまでも解決しないぞ

 工場長は笑いながらユフの肩を叩くと別の部署へ行く。その後五分ほど工場長はユフを検索していたが、結局抽象的な悩みが言語化されなかったので生産管理のミトラに関心が移った。ユフはミトラを検索すると月齢一か月の子どもたちを早く選別してくれ、早ければ早いほど栄養の還元率が良いと焦れているのが分かる。

 ユフは時々考える。人類はなぜいまだに一カ所に集まって働いているのか、と。その気になればユフは自宅にいながらリモートで工場を見て回ることができる。ユフの仕事は設計・選別することなので直接子どもたちを見る必要はない。むしろ人体の数万倍の性能を持つカメラやセンサーで観察する方が合理的なはずだ。しかしそれでも、とユフは思う。人間を超えた感覚を使えても、それは現実とイコールではない。機械が感知・表現できるものは機械が感知・表現できるものだけに限られる。当たり前のことだが納得できる人はそれほどいない。機械は合理の固まりでできている。論理、数値、言語の世界だ。それ以外のものは切り捨てられている。ユフは自分のログをさかのぼり過去のログを実感のない五感をともなって追体験できるが、それは確かに過去と同じであるはずなのに何かが違う。何が違うと聞かれても答えられない。なぜならそれは言語化できない領域の感覚だからだ。言語や数値の外側にある論理以外と現実のずれが気持ち悪い、と考えているのはユフが初めてではない。世界中に何人もいるし、過去にもいた。死者のログにだって、いくつも発見できる。人はなぜ現実を直接味わいたいのか。それは分からないが結局のところ何年経っても人類は直接体験を重視している。そこに合理性のある理由はない。

 工員が製造室に入ってきて、ユフが選別した子どもたちをアルミ製の荷台へ載せていく。検索するとタツゴだ。タツゴはユフに顔を向ける。

タツゴ:また税金が上がるみたいですよ
ユフ:国がやることは中途半端だ。税率は一〇〇%にすればいい

 タツゴは笑い、ユフを検索して冗談を言っていることを確かめる。

ユフ:国民が稼いだ金を全て国が回収して必要な場所に投資すればいい。一人一人が判断するより組織が金の使い途を決めれば世界はより良くなる
タツゴ:国はちゃんとしたデータ持っているだろうし役人も頭の良い人たちばかりですしね

 ユフはタツゴを検索して、嘘を言っているのだと確認する。もちろんこんなのはカビが生えて、またその上にカビが生えた古い考えだ。計画経済が不可能なのは古典的知識と言ってもいい。組織は無限の拡大を求める。時代が進むたびに今度こそと計画経済への欲望が社会に芽生えるが、実際のところは経済ではなく組織拡大の一環であるにすぎない。経済だけではなく、思想、芸術さえ計画したがるのが組織の持つ遺伝子だ。国だけではない、あらゆる人の群れがそうなるし、現状そうでなくても、いずれそうなる可能性を秘めている。社会ではなく人間自体が持つ特性のせいだ。全ての人が個々人に持つ特性が社会全体に広がる。この構造ゆえに人類は発展と破壊を繰り返している。ここ三〇〇年で大きな戦争はないが、これから先もそうだとは限らない。

 タツゴが選別された子どもたちを処理場へ運んでいく。彼らはスープにされた後、他の子どもたちの栄養になる。人間を育てるには人間が一番だ。誰一人として無駄な生はない。たとえそれが失敗の刻印を押されたものであったとしてもだ。

 ユフは各月齢の子どもたちを見て回る。一か月後に出荷を待つ子どもはパック越しにユフを見てくることがある。目が合っているように思うが、検索すると、そもそもほどよく目が見えていない。チップは月齢五か月目から埋め込まれるので、そういう反応が分かるのが面白い。

 ID394826が目をつぶって笑っている。彼は社会の停滞を防ぐ目的で反社会的な特性が出やすいように設計されている。将来なにをやらかすのだろう。ユフは『社会の発展のためには欠かせないリスク』に巻き込まれないことを願う。彼は天才か、犯罪者になるだろう。もっとも一番可能性が高いのは扱いにくい社会の一員になることではある。全ては統計的確率だ。彼が天才になる確率は一〇〇万分の一。社会全体で見れば充分な数だが一つの工場からすればとても薄い確率だ。

 ユフは自分が設計した子どもたちから天才を出したいが、五年前に前の工場長が設計したミト・イノヤがパイナップル賞を受賞してしまった。パイナップル賞は世界で一番名誉ある賞だ。天才の中でも一握りしか得られない。可能性としては同じ工場からパイナップル賞を得る人間が出ることもあるが、かなり薄い確率だろう。夢を見ることは可能だが現実はレモンのように酸っぱくて苦い。

 終業時間になるとユフは工場を出る。南から潮気のある風が吹くと体にまとわりついていたバタークッキーの匂いが一瞬吹き飛ばされるが、すぐにまた戻ってくる。子どもたちが浸かっている培養液の匂いは肌に染み込んでいる。同業者なら検索する前に鼻で分かってしまう。

 道を走っていた車が工場の前に停まった。ユフがそれに乗り「自宅」と指示すると斥力発振機が震え、車体がぎこちなく浮く。ガタがきている車に当たってしまったかとユフはいらだつように息を吐くが、車は一度飛び始めると静かに道路を飛んでいく。

 ユフは自分がいま乗っている車を検索して、自宅に帰るまでに事故に遭う確率を計算する。この車は四年前に製造されていて、三年前に一回、一年前に一回、ここ半年は二回検査されている。当然整備も行われているがなんとなく居心地が悪い。事故に遭う確率は五〇兆分の一だ。いつもは六〇兆分の一である。一〇兆分の一の確率のために乗り換える気は起きない。ユフはそのまま自分の寿命の確率を見る。一時間以内に死ぬ確率は一〇〇〇兆分の一、一年後は九〇〇兆分の一、一〇年後は八〇億分の一、一〇〇年後は十万分の九万九千九百九十九だ。くだらない。ユフが知りたいのは自分が一時間後に死ぬ確率ではなく、一時間後に死ぬかどうかだ。人類の科学がどれだけ進んでもたった一人の人間の運命さえ分からない。自分がどうなるか人は知りたいのだ。しかし科学が教えてくれるのは無数の人間から集められた確率であって一人の人間については想定されていない。ユフの乗る車は地上から浮いて灰色の道路を進んでいく。

2 地上を走る海の水

 朝五時にユフは目を覚ます。超地震予報が出ている。一〇分後に強度八の地震が発生するらしい。津波も予想されていてユフの住む場所に三メートルの津波が来る。

 ユフは服を着替えると、買い替えできそうにない物を探したが何も思いつかなかったので、窓やドアを開けてから家を出る。こうしておけば水は中を通り過ぎていくので家が流されないというのを誰かのログで読んだ記憶がある。ユフは家を出るまでの間に検索して、それがミヨシ・タツミのログだと再発見する。本人の体験ではなくニュースで言っていたことのログだ。しかしニュースのログを調べてもそんな情報はない。彼の勘違いかもしれない。ユフはやはり窓やドアを閉めるべきかと足を止めたが、津波が来るならどのみち窓もドアも破られるだろうと思い直して家を出る。

 道にはもう何人かの人がいて、高い場所を目指して歩いている。車に乗っている人もいるが緊急時は一カ所に交通が発生してシステムが止まってしまうのでユフは歩く。

 時間通りに地震が起きる。最初はなんでもなかったが、突然突き上げるような揺れに変わり、立っていられなくなる。周りを見るとどの人も地面に四つん這いになっている。揺れはいつまでも続き、地面が割れるのではないのかとユフは不安になってきたが、ふと気付けば地震は止まっていた。揺れの感覚が体に残っているだけだ。周りの人も立ったり、歩き始めたりしている。

男:すごい揺れだったな

 ユフの後ろにいた人が声をかけてきた。検索するとゴマ・ヒツジという男でドアを作る工場で働いている。人間工場のすぐそばにある場所で、そこに工場があることをユフは知っていたがドアを作っていたことは知らなかった。ゴマもユフを検索している。

ゴマ:強度八の地震は二〇〇年ぶりだってな。いっぱいログができる
ユフ:津波も来るそうです
ゴマ:このへんに来るのは一二〇年ぶり。大変だ

 ゴマはずっと笑顔だ。ユフもどういうわけか顔が緩むのを止められない。

ゴマ:あ、あいつ、ナマズみたいに寝てる。起こしてやらないと。同じ養育舎のやつなんです。

 ユフはゴマと一緒にまだ眠っている男を起こしに行く。玄関のチャイムを鳴らして、しばらく待つと、目を丸くした男がドアを開ける。検索するとシチミ・イノシという男で、ゴマと同じドアを作る工場で働いている。シチミの後ろでは床に物が大量に散らばっている。

ゴマ:津波が来る、逃げよう
シチミ:地震? 本当にあったのか?
ゴマ:あんな揺れでまだ寝ていたのか
シチミ:情報テロだろ
ゴマ:後ろ見ろって。地震じゃなきゃ泥棒にでも入られたのか?
シチミ:盗むようなもんねぇよ
ゴマ:じゃ逃げるぞ。あと二〇分でここに津波が来る

 ユフは二人と高い場所を目指して歩く。目指す場所はみんな同じなのでどんどん人が増えていく。ユフは人間工場がある場所の高さを検索して一メートルの余裕があることを確かめる。

ゴマ:津波は三メートルか。工場沈むんじゃないか
シチミ:さぁな

 ユフは国土地理院のデータを検索して、ドアを作る工場は海抜三メートル五二センチであることを発見すると二人にデータを送る。

ゴマ:あんたすごいな
シチミ:人間工場の人はみんな頭良いってことだけど本当だな

 二人はユフをことさらほめてきた。いつでもデータにアクセスできるからといって、全ての人がデータを見るわけではない。ユフは二人の遺伝子データと型番を調べて理由を納得する。

 ユフ達は水道局が管理するポンプ場の屋上へ避難した。屋上は人間のるつぼだ。普段は見ない顔が勢ぞろいしている。道路ではまだ避難していない人を回収するために消防団の車が走っている。

 ユフは人間工場のスケジュール表に今日は二時間遅れると報告する。ユフより早く報告している人が何人かいた。おそらくほぼ全員がそうだろうから、今日の操業は一日分遅れるだろう。昨日のうちに選別を済ませておいて良かった。

誰かの声:見ろ

 海の方を見ると海底があらわになっていた。そして沖の方には水の壁が立っている。距離は遠いので小さく見えるが、それでも巨大だと分かる。

 津波を見ようと屋上の際に人が集まる。人に押されて柵から落ちそうになったのでユフは後ろの方へ逃げる。好奇心の津波の方がよっぽど危険だ。ユフが苦々しく群衆を横目で見ていると「あっ」と声が上がった。別のところから黒い海水が地面をなめ始めている。

 海水はどんどん押し寄せ、みるみる水位を上げていく。このままだとポンプ場の屋上まで届きそうだったが、水はポンプ場の三階で止まり、しばらくするとゴミと一緒に海へ引いていった。

 その後も屋上に人々はとどまっていたが一人が階段を降り始めると、みな先を争うように降り始めた。ユフは人が少なくなってから階段を降りた。手すりも、階段もぬるぬるしているし、世界の全てが磯臭く、生臭い。階段を降りた先で一匹の魚がポンプ場の角にひっかかっていた。検索するとボラという魚だ。ひっくり返ったボラの白いお腹は黒くなった地上の中で目にまぶしいほど輝いている。

 ぬるぬるする地面をペンギンのように歩きながらユフは自宅に戻り、めちゃくちゃになった部屋を確認する。想定通りに水は通り抜けたようだが、もうここには住めないし、どのみち建て直すしかないのだから流された方が良かったのかもしれない。

 ユフは住宅工場に新しい家を注文すると、ホテルの予約を九〇日分取る。早めに動いたので誰かと競争する必要はなかった。しかし残っていたのはスイートルームだけだ。

 人間工場へ出勤すると工員たちが顔を突き合わせて今朝の地震と津波について話していた。低層地に住宅がある人はみんな津波で家が破壊されたらしい。建て直すのに三か月分の給料が必要だが政府からの支援や保険があるのでたぶん問題ないだろうというあたりで話が終わった。今日からどこで寝ればいいのかは各自まだ分からないようだ。ユフはホテルの部屋をおさえていたので羨望の目で見られた。

 ユフは子どもたちの様子を確認する。地震があった時間に各種の数値が乱れていたが特に問題はなさそうだ。どの子も今は落ち着いている。それよりも工場の床に散らばった工具や書類の片づけが大変そうだ。

 ユフが仕事を終えて工場を出ると、バタークッキーの匂いに変わって、磯臭さと生臭さが体を包む。車はもう操業を再開していたので工場を出てすぐに乗れた。今日の車はスムーズに動く。道は既に清掃車によって道の向こうまで光っている。道が光っていると感じたのは初めてだ。朝に見た黒い道路との対比のせいだ。

 ユフが予約したホテルでは入り口に人があふれるほどひしめいている。人の壁を押し通らなければならなかったのでチェックインするまで半時間もかかる。中にいるのは宿泊客ではなく何とか泊まれないだろうかと直接問い合わせに来た人がほとんどだった。

 ユフは部屋のバスルームで風呂に入り、磯臭さと生臭さが落ちるまで熱い湯につかる。風呂から出ると窓から町を見下ろす。道には明かりがつき、道路は白い光を反射している。しかし、そこ以外は不気味なほど暗い。ホテルに泊まれない人達はどこへ行くのだろう。公共施設が人を受け入れているが、そういう場所に行かないで済んで本当に良かったとユフはほっと胸をなで下ろす。

3 借り物の喪服

 レンタルした喪服はサイズが合っているはずなのにどこか体に引っかかったり布が余っている感覚に襲われる。周りを見てもやはりレンタルの喪服を着ている人は居心地悪そうに体を動かしている。ユフもその一人だ。家が津波でめちゃくちゃになってしまったのだからしかたがない。

 一週間前の地震や津波で死んだ人はいない。ぬかるんだ道でころび怪我をした人が全国で一〇〇人ほどいたぐらいだ。

ユフ:本日はおめでとうございます
受付:ありがとうございます

 ユフは香典を受付に渡し、記帳を済ませると花を受け取り葬儀場に入る。会場奥の天井には『ウノ・ウシタ自殺成功会』と書かれた看板が吊られていて、その下には大量の花で埋もれそうになっている棺がある。ユフはその棺に献花を済ませると棺の中にいるウノ・ウシタを検索する。自殺俱楽部の評議会七人委員会の一人で地質物理学の権威でもあり、一週間前の地震は彼の提唱した三点同期ジオメトリクス理論によって二か月前から秒単位で予想されていて、実際にその正しさは証明された。彼は三日かけて理論に穴がないことを確かめると、家に火を放ってから首を吊った。彼が死んですぐに家は崩れ、救急隊が到着した時には自殺を達成していた。

司会:本日はウノ氏の自殺成功会に集まってくださり、まことにありがとうございます。そろそろ始めさせていただくので献花をすませた方はご着席願います。まだの方はどうぞ

 会場にいる人たちがめいめいに座り始める。天井の明かりが薄暗くなると棺の奥にある壇上に自殺倶楽部の幹部たちが並び一人ずつ口上を述べていく。

モリ:ウノ氏は地震予知の研究に輝かしい実績を残し、積極的自殺の精神にのっとり見事完遂されました。彼の栄光は人類史の中で永遠に語り継がれるでしょう

 モリは自殺倶楽部の最高顧問であり法律担当でもある。ユフは倶楽部に入会した時に一度だけ直接話したことがある。

モリ:人は幸せでなければなりません。幸せでなければ決して自殺することはできないのです。不幸な人は不幸です。なぜなら彼らは自殺する自由を奪われているのですから

 ユフも自分が設計した人間がパイナップル賞を受賞すれば自殺するつもりだ。幸せが極限まで高まった時に死を選ぶ。これほど自由で栄光なことはない。周りにいる人たちを検索すると、それぞれが幸せの絶頂で死んでいるところを空想している。

モリ:幸せになりましょう。そして死にましょう。それはこの世に生きる全ての人に許された至上の権利なのです。

 会場にいた人たちが拍手する。中には感極まって立ち上がる人もいる。雷のような拍手の中モリが下がり、次の幹部が喋り始める。

 全ての幹部が喋り終えると棺は高熱釜へ運ばれ焼却された。ウノ・ウシタのチップも消え、彼の情報はデータバンクにアーカイブされる。

 ユフは帰りの車の中で自分が自殺した後に自殺倶楽部によって開かれる自分の葬儀を思い浮かべる。天才を輩出した人間設計者として栄誉ある死を遂げる。死ぬために生きる高揚感、それだけで今この瞬間にも天才が三人、四人と生まれているような喜びがユフの背中を貫く。恍惚の震えが全身に広がるが、腰のあたりに薄い固さを感じてユフは上着を脱いだ。そこには『もー30』と印字された札が付いている。喪服を借りた時にその札が付いていたのをユフは憶えていた。着る前にもその札をはがそうと考えていたが忘れていた。幸いにも上着の内側なので誰かに見られてはいないがユフは恥ずかしさで顔が熱くなる。

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