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過去や未来は存在するの? 哲学的な問い3

第一章 「いま」以外はどこにある?――時間の入口

過去や未来って、存在するのだろうか。こういう問いは、いったん口にした瞬間に、空気が少し変わる。なぜなら「存在する」という言葉を、いつもより厳密に扱わないと答えが出ないからだ。机がある、雲がある、猫がいる。こういう「ある」は分かりやすい。目の前にあって、触れたり見えたりする。ところが過去と未来は、どれだけ探しても目の前に転がっていない。昨日は手に取れないし、明日を棚から引き出すこともできない。だから直感的には「過去も未来も存在しない。あるのは今だけだ」と言いたくなる。けれど、その言い切りにも、どこか引っかかりが残る。たとえば私たちは過去のせいで傷つき、未来のことで眠れなくなる。存在しないものに、そこまで支配されるだろうか。

まず最初に、問いの形を整えよう。「過去や未来は存在するのか」と聞くとき、私たちは二つの意味を混ぜていることが多い。一つは「世界の中に実体としてあるのか」という意味だ。もう一つは「私たちの経験の中で、確かな何かとして働いているのか」という意味だ。前者は机や石のような存在を想像している。後者は痛みや期待のような存在を含む。痛みは机のように置いておけないが、たしかに“ある”。期待も同じだ。目に見えないけれど、私の行動を変える力を持つ。ここを混同すると、議論はすぐに迷子になる。過去と未来は「机みたいにあるのか?」と問われると、ほとんどの人が「ない」と答える。でも「私たちの現実の一部として働くのか?」と問われると、「ある」と言わざるを得ない。つまり最初から、存在の定義を二段階で考える必要がある。

私たちが「今」を特別視するのは当然だ。今だけが直接体験できる。目の前の景色、鳴っている音、身体の重さ、喉の渇き。これらはすべて現在として与えられる。過去は記憶という形でしか来ないし、未来は予測や想像でしか来ない。だから、現在は“生で届く”が、過去と未来は“加工されて届く”。ここから「現在だけが本物で、他は幻だ」という主張が生まれる。しかし、加工されて届くものが即座に偽物だとは限らない。ニュースは編集されて届くが、起きた出来事が消えるわけではない。地図は紙の上の記号だが、山や川が幻になるわけでもない。加工の有無と、存在の有無は別だ。過去と未来も同じかもしれない。

では「存在する」とは何なのか。ここで便利なのは、存在を一枚岩だと思わないことだ。存在には段階や種類がある、と考える。たとえば「いま目の前にある」「どこかにある」「記録としてある」「可能性としてある」「概念としてある」。こういうふうに存在のモードを分けると、過去と未来の扱いが急に楽になる。過去は「いま目の前にある」わけではないが、「記録としてある」「結果として今に刻まれている」という意味では確かにある。未来は「どこかにある」わけではないが、「可能性としてある」「予告としてある」という意味で、やはりある。ここで重要なのは、存在を“物の存在”だけに限定しないことだ。哲学の面白さは、存在の語彙を増やすところにある。

過去について考えてみよう。過去はもう消えてしまった、と私たちは言う。確かに、過去の出来事そのものを今からやり直すことはできない。昨日の会話を取り出して、机の上に置き直すこともできない。だが、過去が完全に無かったことになるかというと、そんなはずもない。なぜなら今の私が、過去の結果としてここにいるからだ。身体の傷、癖、言い方、性格、得意不得意、恐れているもの。これらは過去の積み重ねの“現在形”だ。さらに、写真や日記やメールのログや、他人の記憶や、町の風景や、歴史資料。過去は、直接触れないかわりに、無数の痕跡として現在に散らばっている。つまり過去は「消えた」のではなく「今の形に変換された」と言えるのかもしれない。氷が水になっても、質量が消えるわけではないように。

未来はどうだろう。未来はまだ起きていない。だから存在しない、と言いたくなる。だが私たちは未来に向けて準備をする。明日のために早く寝る。来週のために食材を買う。来年のために貯金をする。準備という行為は、未来が何らかの形で“現実”に関わっているからこそ成立する。もし未来が完全に無いなら、準備はただの空振りだ。しかし実際には、未来がどうなるかは分からないにせよ、「こうなるかもしれない」という可能性が、今の行動を規定している。未来は出来事としては無いが、可能性としては今ここにある。可能性は、机のような実体ではないが、行動の地図として現実を動かす。ここを認めると、「未来は存在しない」と言うとき、私たちは“出来事として”を省略しているだけだと分かる。

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