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文学・思想の一丁目一番地
俺だけが意味を失くしている世界で
第一章 意味は死んだ。俺が殺した。
朝、目が覚めると、世界はまだそこにあった。
それは、ある種の絶望だった。
畳は毛羽立ち、空気はぬるく、天井の染みが少し広がったような気がした。スマホは電源が切れていて、充電ケーブルの根元が断線していた。そんなことは、どうでもよかった。いや、正確に言えば「どうでもいい」と思える自分の脳味噌の機能に、俺はもはや何の期待もしていなかった。
アキラ32歳。無職。独身。
かつては哲学科にいた。ソクラテスもハイデガーも読んだ。ニーチェに至っては、ラップ調にまとめて友人に送ったこともある。
「意味が俺を殺す前に、俺が意味を殺す」
──その一節を冗談半分で送った夜、返信はなかった。
「意味」ってやつは、勝手に生えてくる。
「働く意味」「恋をする意味」「学ぶ意味」「家族を持つ意味」。
気づけば、人生は意味で埋め尽くされていた。
だが、そのすべてが俺の背中にのしかかってきて、息をするのも億劫になった。
いつからだろう。
意味という言葉に、うっすらとした悪臭を感じるようになったのは。
母は言った。「働かないの?」「みんな頑張ってるよ」
父は言わなかった。けれど、沈黙には意味が詰まっていた。
「失望」と「諦め」と「どうしようもなさ」が三層構造で、厚く冷たく沈殿していた。
大学を卒業してからの10年間、俺はただ、生きていた。
生きていた、というのも語弊かもしれない。
ただ、死なずにいた。それだけだ。
誰かと会うこともなくなった。
履歴書を書く気力も失せた。
ネットにアクセスし、罵倒を読み、罵倒を書き、時間を溶かしていく。
だけど、それは「意味がない」と切って捨てられる行為なのか?
自分が立っているこの狭い一畳半に、何らかの意味を要求することこそ、傲慢ではないのか?
俺は思った。
「意味」のせいで、世界が壊れている。
意味のせいで、人は自分を嫌いになる。
意味があるからこそ、そこに届かない人間は、屑扱いされる。
じゃあ、いっそ──意味なんてもの、ぶっ壊してしまえばいい。
そうすれば、誰も傷つかない。誰も比べない。誰も劣らない。
俺は、意味にとどめを刺す存在になりたかった。
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