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無尽蔵の文学に埋もれていく 短文学8

第1章 ソレナの登場

小説AI「ソレナ」が登場した日、俺は机に向かっていた。鉛筆の芯を折り、ため息とともに無意味な句読点を並べていた。何時間もかけて書いた数百字の文章は、推敲すればするほど色褪せていった。文脈が崩れ、登場人物が他人になる。俺は、ただ、それを、直していた。

そのときだ。X(旧Twitter)に流れてきたニュース。「ソレナ、世界最速で小説を書くAIとしてデビュー」。読み飛ばすはずだった。でも、スクロールが止まった。1分で1万字。しかも、平坦な文体でもなく、文脈破綻もない。いや、そんなことより“読者満足度99.8%”の文字に、俺の目は張りついた。

それがどうした。俺には関係ない。そう言い聞かせてタブを閉じる。でも閉じきれなかった。俺は夜中、布団の中でそのデモ作品を読んでいた。ソレナが書いたとされる掌編。タイトルは忘れた。内容も忘れた。でも、ただ一つ覚えてる。

悔しかった。

心の奥でずっと思ってた。「読まれないのは俺の才能がないからじゃない、時代が俺を求めてないだけだ」って。けれど、違った。ソレナの小説には、俺がずっと書こうとして、でも届かなかった“共感”があった。シンプルで、奥行きがあって、読みやすくて、深い。「そんなもの本当にあるのかよ」って今でも思うけど、読者は確かにそう評価していた。

レビュー欄が地獄だった。

「泣いた」「こんなに自分のことを理解してくれる作品は初めて」「人間より人間らしい」。

人間より人間らしい?

ふざけるな。

じゃあ俺の20年は何だったんだ。孤独と劣等感と承認欲求だけで粘土みたいにこねた原稿は、全部無意味だったのか。

「ソレナは人間の代わりになるのか?」

そんな議論が飛び交っていた。文芸誌の特集でも、「AI文学時代の幕開け」なんて見出しが踊っていた。でも俺が本当に聞きたかったのは、「俺はまだ書いてていいのか?」ってことだった。

誰も答えてくれない。そりゃそうだ。俺に興味のある読者なんかいないんだから。

それからの日々は、みじめだった。いや、正確に言えば、それ以前からずっとみじめだったのかもしれない。でも、ソレナの登場はその“みじめさ”に輪郭を与えた。

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