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メモリ高騰がひどすぎて宇宙まで飛んだんだが? ジャンクノベル5
第一章 メモリが高騰しすぎて宇宙まで飛んだんだが?
メモリが高すぎる。気のせいじゃなくてニュースにもなった。価格のニュースってだいたい「卵が高い」とか「ガソリンが高い」とか、生活の足元を殴ってくるやつなのに、今年はなぜか「メモリが高い」。世界はついに、RAMの値札で泣く時代に突入したらしい。
ハード〇フの店内は、いつも通りの香りがした。古いプラスチックと、誰かの青春と、そして微かに鉄。レジ前のガラスケースには、ショーケース待遇を受けたDDR4メモリが鎮座していた。鍵付きだ。まるで宝石店。店員さんが「こちら、触れません」と言いそうな距離感で、板切れがこちらを見下ろしている。
隣の棚にはDDR3が丁寧にラッピングされていた。ラッピングだ。中古メモリに。リボンはさすがに無いが、透明フィルムのきらめきだけで「私は価値があります」と主張してくる。去年までは裸で箱に放り込まれていたのに、急に礼儀作法を覚えたらしい。
そして問題のジャンク箱である。
DDR2メモリが、値札付きで、綺麗に整列していた。
「……ええ~、1000円!!!!!!???」
一山いくらだったDDR2が、もはや手裏剣遊びできない値段になってしまった。これ一枚で紙幣が一枚飛んでいく。落として踏んだら、財布の中身を踏んだのと同義だ。金の端子が、やけに眩しく見える。あれ? これって金塊だっけ? いや、ただの2GBだ。しかもたぶんECCじゃない。
なぜこんなにも高いのか誰にも分からない。AI需要がどうとか言われているけれど、もしそうならDDR3以前のものまで値上がりするのはおかしい。おかしいが、品薄になり、値上がりしているのは間違いない。もはやメモリはジャンク界で金に等しい交換物となり始めている。
ジャンク会話の世界では、貨幣は二種類ある。現金と、部品だ。現金は現金で便利だが、部品は「その場で話が早い」。特にメモリは交換の速度が速い。なにしろ、刺せば動く可能性がある。刺して動けば勝ちだ。動かなくても、見た目がそれっぽければ、なんとなく勝った気分になる。人類の勝敗観はそういう雑さで回っている。
私がDDR2のありえない値段に驚いていると、「いまは時期が悪い」と声をかけてきた人がいる。
サンディおじさんだ。
彼がサンディブリッジ世代のパソコンを使っているかどうかは知らないが、なんとなく古いパソコンを使っていると勝手に私が思い込んでいる。名前も知らない。ただタグ付けにサンディおじさんと脳内で呼んでいるだけである。彼はいつも店内のどこかにいて、いつも「時期が悪い」を供給してくる。もはや人間というより、時期が悪い生成器だ。
「メモリの高騰は今回が初めてじゃないんだよ」
聞かれてもいないのに話を続ける。サンディおじさんは、語り始めると冷却ファンが回り続けるタイプだ。
「これだけ値上げするのも初めてじゃない。メモリに限らずPCパーツの値段は生きている。ある時は高くなり、ある時は安くなる。現に一年前はDDR2なんてタダ同然の値段だった。値段はいつか下がる。今は時期が悪い。どうしても必要でないなら買わない方がいい」
ありがたい助言だった。正しい。正しいのだが、ジャンクの前では正しさはすぐに負ける。人は「必要だから」買うのではない。「そこにあるから」買うのだ。存在が誘惑を生む。ジャンク箱は禁断の果実で、ラベルはリンゴの値段札だ。
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