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異世界スライム牧場始めました ~最弱テイマーだけど世界をぬめぬめ包みました~

第一章 転生したらスライムの世話係だった

俺が死んだのは、たしか火曜日だったと思う。どうでもいいようでいて、どうでもよくなかった。というのも、その日俺は社畜人生の終わりを告げる退職届を、上司の机の上に置く勇気がなかったからだ。

つまり、俺は逃げた。そして、トラックにはねられた。人生ってのは、だいたいそんなもんだ。前向きに生きようとした瞬間に後ろから轢かれる。神も仏も、アスファルトの上に落ちてる。

で、目が覚めたら草原だった。ふわふわの草。青すぎる空。鼻の穴に入ってくる風の匂いが、やけに自然だった。たぶん花粉も入ってた。

「おめでとうございます。あなたは異世界に転生しました」

目の前に、虹色の光の粒をまとった謎の球体がふよふよ浮いていた。ああ、チュートリアルってやつだな。ここから俺の冒険が始まるのか。俺にもついに火属性の大剣とSランクスキルと、ハーレムと魔王討伐と、あとエロい展開が来るのか。

「あなたのスキルは、スライムテイマーです」

……はい?

「レアリティはN(ノーマル)以下です。スライムしか飼えません。牛や馬、ドラゴンは不可です」

はい?

「あなたの種族は“人間(無職)”です。職業は“スライム牧場主”です。初期装備は“木のバケツ(底抜け)”と“干し草のベッド”です。支給金はありません」

はいの三連打で済まされる内容じゃないよね、これ。

俺はとりあえず、座った。頭が混乱していた。いや、体の半分は納得していた。なぜなら、人生とは報われないように設計されているからだ。

だが、それでも。スライムだけはない。

「せめて犬か猫じゃダメだったのかよ……」

案内されたのは、王都から馬で三日、徒歩で五日、スライムで二分の「スライム原野」だった。住居は、ボロい納屋。周囲はぐにょぐにょした何かが跳ねていた。見たくなかったが、見てしまった。

あれが、俺の仲間たちなのか。

スライムたちは、ぴょんぴょんと跳ねながら、俺の存在を明らかにスルーしていた。彼らには心がないのか? それとも、心があるふりをして俺を見下しているのか?

一匹のスライムが俺の足元に来て、ぺちょっと吸い付いた。

「ひええええええ」

俺は反射的に叫んだ。だが、スライムは静かにそこにいた。丸くて、透明で、無垢だった。赤ちゃんのような、アメーバのような、社会からはみ出した社畜の魂のような。

……かわいい、かもしれない。

それが、ぬめ太との出会いだった。

俺は彼に名前をつけた。なぜなら、名前をつけないと愛せないからだ。これはペット飼育本で学んだ真理だ。

ぬめ太は特に反応を示さなかった。ただ、ぺちょ、ぺちょ、と音を立てて跳ねていた。

次に来たのは、ちょっと青っぽいスライムだった。こいつは俺の足の上に乗ってきた。見た目は涼しげだが、やけに重かった。お前、水分何リットルあるんだよ。

「お前は……ぬめ吉だ」

こいつも何も言わなかった。でも俺の心は、ほんの少しだけ暖かかった。

スライムたちは、思ったより多機能だった。寝るときは湯たんぽ代わりになるし、掃除もしてくれる(勝手に床を這って汚れを吸収してるだけだが)。それに何より、喋らない。誰も俺を責めない。

それが、こんなにも幸せなことだったとは。

俺は朝起きて、スライムに囲まれていることに、最初は恐怖し、次に違和感を感じ、そして最終的に安堵していた。

「俺……もしかして、もう十分なんじゃね?」

だが、転機は突然訪れる。

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