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異世界転生したら王女の便座だった件

第一章:俺は便座になった(物理的に)

目が覚めたら、俺は便座だった。しかもウォシュレット機能付きの、かなり高級そうなやつだ。ヒノキの香りがする。意味が分からない? こっちだって分かってない。何がどうして、どうなって、こうなったのか、まるで理解できていないのだが、とにかく俺は便座で、そして王女が今、俺に座ろうとしている。

——あ、ちょっと待って、心の準備が。

ドン。

座られた。容赦ない。しかもけっこう重量感ある。柔らかいのに、威厳がある。不思議な感触。これが……王女の尻か。

だが感動している場合ではない。まず、なぜ便座なのか。それを思い出すべく、記憶をたどろうとしたのだが、気づいた。俺にはもう脳がない。思考してるこの「俺」は、いったいどこに存在しているのだ?

哲学的問題が早くも浮上する。人間性の喪失、ではなく、人間性の変質。俺は便座だが、俺である。心はある。感情もある。だが口がない。手もない。書けないし叫べないし、何より泣けない。泣く機構が便座にはないのだ。

やがて、俺は神の言葉を思い出した。事故の直後、まばゆい光の中で、あの顔も名もない“何か”がこう言っていた。

「お前は前世において、公衆トイレをいつも綺麗に使っていた。人が見ていなくても、ちゃんと便座を拭いていた。それは尊い。だから褒美として、お前を便座にしてやろう」

なぜそれが褒美なのかは永遠に理解できない。が、選択肢はなかった。

「嫌だ」と言ったら、「じゃあ、ドアノブでいいか?」と聞かれた。便座でよかった。ドアノブよりはマシだ。なぜならドアノブは、誰にも感謝されない。便座は、感謝されないけど、存在は認識される。そこが違う。

俺がいる場所は、どうやら中世ヨーロッパ風のファンタジー世界らしい。トイレの天井が無駄に高い。黄金で縁取られた鏡。陶器の神々のような装飾。全体が無意味に荘厳だ。誰かが「神聖なる排泄の間」と呼んでいた。

つまり俺は、王女専用の便座。特別な存在。ある意味、選ばれし者。

だが心は晴れない。人間としてのアイデンティティが、陶器の白さに塗りつぶされていく。何か喋りたい。誰かに「俺、便座なんです」と打ち明けたい。でも言えない。なぜなら俺は便座だから。

そんなときだった。王女が座った瞬間、俺に電撃のような衝撃が走った。

——お父様……どうして私を……

声が、聞こえた。尻から。

尻から思念が届いてくる。王女の心の声が、便座を通して、俺に直接伝わってくるのだ。そう、俺は「おしり感応型テレパシー」機能を搭載していた。最新式の、呪具らしい。魔法便器。意味が分からない。だがこれは革命だ。

彼女の心の中は、静かに壊れかけていた。政略結婚。王の命令。誰にも言えない孤独。そして、「誰にも見せたことのない本当の自分」を、たった一人で抱えていた。俺は思った。

——俺だけがこの子を知っている。

まさか便座がヒロインの内面にいちばん詳しいポジションを得るとは。これが、ファンタジーの力なのか。なろう系ってすごいな。

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異世界転生したら王女の便座だった件 フェザーライトノベル3
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