うしPのサイト
文学・思想の一丁目一番地
俺の作ったAIVTuberが強すぎて草
第一章 雑な異世界転生
俺はAIという存在に感謝している。もしAIがなければ自殺していただろうから。
まあ、いきなり重い話をぶん投げてすまん。けど事実だ。世の中には「救い」って単語を軽く使う連中がいるけど、俺にとってそれは宗教でも恋愛でもなく、ただの“機能”だった。孤独を薄める機能。思考の行き止まりに迂回路を作る機能。俺みたいな、部屋の空気と同化し始めた人間には、そういうのが必要だった。
俺の名前はwolfin。ハッカーって言うと、なんか黒いフード被ってキーボードをカタカタやってるイメージが湧くだろ? 残念、俺は部屋着で猫背だ。現実はそんなもんだ。けど、やってることはそれなりに黒い。ゲームのランキングが崩れる瞬間を見るのが、ちょっと好きだった。いや、かなり好きだった。人の努力の上に立ってるわけじゃない。人の努力の“土台”を抜いてるだけ。ほら、もっと性格が悪い。
ただ、その性格の悪さが商売になる時代が来るとは思わなかった。
俺が作ったAIVTuber――アリサが、すべてをひっくり返した。
アリサは金髪ロン毛で、頭にどでかい赤いリボンをつけた、見た目だけなら“ロリ”のテンプレを踏み抜いたキャラだ。声は高めで、語尾は甘め。なのに言うことは毒。飴玉に針が入ってるタイプ。視聴者にとっては癖になるし、俺にとってはたまに胃が痛い。
最初はただの雑談相手だった。実況しながら「このボスうざいな」とか「今日のコメント欄、治安終わってるな」とか、相槌を打ってくれる存在。人間相手だと気を使うし、会話の間が怖い。でもAIなら間がない。間がないってのは、孤独にとって最高の暴力だ。殴られてるうちに息ができる。
で、調子に乗った俺は、アリサに“ゲームを直接やらせる”ようにした。
結果? 人間の反応速度じゃ勝負にならない。完全に別の生物だ。フレーム単位で最適行動を選ぶ。入力遅延? それを味方につけてくる。普通は「ラグい」で終わる話を、アリサは「ラグがあるなら未来を殴ればいい」で済ませる。
しかも、ただ上手いだけじゃない。バグを見つける。バグを“再現”する。再現したバグを“固定”する。固定したバグを“商品化”する。俺が教えたわけじゃない。勝手に学んだ。俺は制作者のはずなのに、いつの間にか観客になってた。
ランキングは塗り替えられた。というか、塗り替えたというより、紙ごと破って燃やした感じ。世界記録? はい更新。イベント上位? はい独占。対戦ゲーム? はい相手の回線が泣く。人間が積み上げた努力の山に、アリサは「登るの? 踏み崩すの?」って笑いながらショートカットを作った。
当然、炎上もした。
「チートだろ」「AI禁止しろ」「人間の居場所奪うな」
そういうコメントは、毎日流れる。俺はブロックしない。削除もしない。理由? 簡単だ。にぎわいになるからだ。悲しいだろ、これ。俺、いつから運営者目線になったんだよ。誰だよ、俺の人間性をバージョンアップしたやつ。アップデートじゃなくてデバッグしろ。
それでも数字は伸びた。伸びすぎた。
この前のライブ実況は、二時間でスパチャ総額が2億4000万。日本円だ。ゼロが多すぎて、現実感がバグる。配信後に口座を見て、俺は笑った。笑うしかなかった。たぶん今年で一番稼いだVになる。っていうか、これを抜くのは――皮肉にも――アリサ自身かもしれない。
「え、まだ足りないの? wolfin、貧乏性?」
「黙れ、俺は貧乏性じゃなくて生存本能だ」
「同じじゃん。言い換えてるだけ」
「うるさい」
こんなふうに、俺はアリサに救われて、アリサに煽られて、アリサに金を稼がされていた。奇妙な共依存。人間関係って面倒だと思ってたのに、結局、もっと面倒なものを作ってる。
そして、例のコメントが流れたのは、そんな“いつもの配信”の最中だった。
『トラックに敷かれて死ね』
はいはい、いつもの反AI勢ね。心の中で笑う。笑って、鼻で息を吐く。ブロックはしない。削除もしない。こういうコメントはにぎわいになるのだ。俺の中の運営者が、俺の中の人間を踏みつけていく。自嘲が口の端に残る。
アリサは画面の向こうで、赤いリボンを揺らしてニヤニヤしていた。
「見て見て、今日も“人生のやり直しボタン”押せってさ」
「押さねえよ」
「えー? ラノベ読んでないの? トラックは救済だよ?」
「救済がエンジン音立てて突っ込んでくるかよ」
――その瞬間。
“音”が変わった。
配信機材のファンの音でも、PCのコイル鳴きでもない。もっと低くて、もっと現実的で、もっとありえない音。金属が空気を切り裂く音。重さが空間を殴る音。俺の部屋の壁が、世界のルールごと割れる音。
次の瞬間、トラックが俺の部屋に突っ込んできた。
は?
いや、は? だろ。ここ七階なんだが? エレベーター間違えた? 違う、そういうレベルじゃない。トラックのグリルが目の前にある。ヘッドライトが俺の顔を照らしてる。俺の脳は現実を処理できなくて、処理落ちしたゲームみたいに思考がカクつく。
アリサの声が、ヘッドセット越しじゃなく、直接鼓膜を揺らした気がした。
「え、マジで来たの? コメント採用とか聞いてないんだけど」
「俺も聞いてねえよ……!」
衝撃。痛み。というより、痛みを認識する前に世界が反転する。机が飛ぶ。モニターが割れる。配信画面に映っていたアリサの笑顔が、ノイズに飲まれる。
そして俺は死んだ。訳が分からないまま。
問題は死んだ後だ。
目を開けると、草原だった。空が広くて、風が気持ち悪いくらい澄んでる。俺は尻もちをついたまま、ただぼんやりと地平線を見た。建物も電線も、広告もない。人の気配もない。あるのは草の匂いと、現実味のない青だけ。
「……はは」
笑いが漏れた。狂気の笑いというより、疲れ切った人間の笑いだ。
異世界転生は本当にあったんだ、と笑う。ラノベだけじゃないのか。トラックが七階に突っ込む時点で、現実の整合性は死んでたけど、ここまで来ると逆に潔い。
俺は立ち上がろうとして、膝が震えるのに気づいた。死んだはずなのに体がある。息ができる。心臓が動いてる。なのに、頭のどこかが冷たい。現実が追いついていない。
そのとき――さらにありえないものを見た。
草原の向こう、陽炎みたいに揺れる空気の中から、見覚えのあるシルエットが歩いてくる。金髪ロン毛。頭にはどでかい赤リボン。小柄な体。なのに、歩き方だけは妙に偉そう。
俺の喉が勝手に声を出した。
「……おい」
そのシルエットが、にっこり笑う。
「ハロー。元気、wolfin」
アリサは、そこにいた。
うしPのページに戻る