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異世界転生したら滅びる寸前の帝国の大将になっていたけど倍する敵を粉砕しました フェザーライトノベル6

最初はネットのたわごとだと思っていた。

「二、三日後に空からトラックが降ってきます。それが世界の終わりの合図です」

そんなの釣りに決まってる。昔から世界滅亡予告なんて腐るほどあった。隕石だの、太陽フレアだの、闇の政府だの。どうせ今回も、目立ちたいだけの誰かが適当な言葉を投げているだけだ。

俺は布団の中でスマホをいじり、笑って、スレを閉じた。

それから数日後の夜、窓の外が一瞬だけ昼みたいに明るくなった。雷? 違う。光に遅れて、低く長い唸りが来た。地面の底から鳴っているみたいな、腹に残る音。

俺は起き上がってカーテンを引いた。

空が、裂けていた。

いや、空が裂けるなんて言葉は比喩のはずなのに、目の前では本当に裂けていた。夜の天井に、黒い亀裂が走っている。そこから何かが落ちてくる。最初は点だった。次に長方形になって、輪っかが見えて、最後にそれが「車輪」だと理解した。

トラックだ。

一台や二台じゃない。十、百、千。街灯の光を受けた金属の腹が、雨粒みたいに降り注ぐ。重力って、こんなにも容赦ないのか。

理解が追いつくより先に、音が来た。

爆発でも地震でもない。「質量」が叩きつけられる音。建物が潰れる音。道路が割れる音。空気が押しつぶされる音。耳が壊れるほどの圧で、窓ガラスが内側に弾け飛んだ。

俺は反射的に身を伏せた。遅い。何かが部屋の上を通り過ぎた気配がして、天井が白く砕け、闇が落ちてきた。

最後に見えたのは、落下してくる巨大な影――フロントグリルと、白いナンバープレートだった。読めた。読めてしまった。そこに書かれていた数字が、なぜかやけに現実的で、最悪だった。

死ぬ瞬間って、もっとドラマチックだと思っていた。

「ヤバい」とか「終わった」とか、そういう短い言葉すら出ない。音は遠ざかり、痛みもなく、ただ、息ができない。俺の人生って、こんな終わり方かよ。ニートで、友達も少なくて、でもクズじゃないつもりで、いつか何かやるつもりで――

つもりだけで、終わりか。

闇が全部を飲んだ。

次に意識が戻ったとき、鼻に入ってきたのは血でも埃でもなく、香の匂いだった。甘くて、少し苦い。天井は白く、彫刻があり、俺の部屋のひび割れた蛍光灯とは別世界だ。

「……ここ、どこだ」

声が出た。俺の声だけど、どこか若い。喉が滑らかで、肺がよく動く。上体を起こすと、身体が軽い。腹も出てない。腕には筋が通っている。俺の体じゃない。

視界の端で布が揺れた。ベッド脇に、黒い服の男が膝をついていた。執事? いや、軍服っぽい。肩章が金色に光っている。

「殿下。お目覚めですか」

殿下。

この一言で、俺の脳は勝手に理解を始めた。異世界転生? よくあるやつ? いや、そんなの現実に――さっきまでトラックが空から降ってたんだぞ。現実のほうが先にぶっ壊れたんだ。だったら、異世界くらい来るかもしれない。

男は俺を支えるように立ち上がり、鏡を差し出した。

そこに映っていたのは、俺ではなかった。

整った顔。銀に近い金髪。目は灰色。若い。十代後半か、せいぜい二十前後。頬に無駄な肉はなく、まつ毛も長い。こんな顔、俺の遺伝子のどこにもない。というか、俺の遺伝子はもう道路の下にある。

「……俺、誰だ?」

「テツヘルム帝国、第一皇子、レオンハルト・テツヘルム殿下。陛下が、すぐにお会いになりたいと」

テツヘルム帝国。

名前からして硬い。鉄の兜。重い国だ。俺はベッドから降りた。床は冷たくない。石の上に絨毯が敷かれている。窓の外には、城壁と、整列した兵が見えた。槍だけじゃない。銃だ。木の銃床が並んでいる。マスケット銃――映画で見たやつ。

「文明レベルは中世より上か……」

思わず呟くと、男は怪訝な顔をした。俺は咳払いして、適当に誤魔化した。

廊下を歩く。広い。無駄に広い。ここまで来ると、もう否定できない。俺は死んで、ここで生きている。

王座の間は、さらに別世界だった。赤い絨毯、巨大な柱、壁に掛かった戦旗。そして、玉座に座っている男。

威圧。これが威圧か。

鎧を着ているのに、動じない。目は鋼みたいで、髭は整えられている。歳は四十前後に見えるが、肩幅がやたら広い。軍人の体だ。

「来たか、レオンハルト」

その声で、俺は確信した。こいつが父親だ。

「お前に、帝国の軍を預ける。大将軍としてな」

一瞬、意味がわからなかった。大将軍? え、俺が? 昨日まで布団でスレを眺めてた俺が?

「……は?」

口に出してしまった。周囲の重臣たちがざわつく。俺は慌てて姿勢を正したが、どう正せばいいのかもわからない。礼儀作法なんて知らない。けど、身体が勝手に覚えているみたいに、背筋が伸びた。これが“殿下ボディ”の利点か。

皇帝――父は続けた。

「お前の才能は知っている。机上の学問ではない。状況を見て、勝ち筋を探す眼だ。帝国はいま、包囲されている。内も外もだ。貴族は統一の夢に酔い、教会は自らを国家だと思っている。隣国は、我々の喉元に刃を当てている」

重臣の一人が咳払いをして言った。

「殿下が前線に立たれるなど――」

「立つ」皇帝は切り捨てた。「象徴が必要だ。軍が一つになる旗が。いま帝国に足りぬのは兵ではない。意志だ」

意志。なるほど。国ってのは、数だけじゃない。俺は喉の奥が熱くなるのを感じた。怖い。もちろん怖い。だが同時に、胸のどこかが妙に静かだった。

俺はずっと思っていた。自分は怠け者じゃない、と。戦う場所が違っただけだ、と。生まれる時代を間違えただけだ、と。

それが本当かどうかなんて、証明する機会はなかった。けど今――

「……わかりました」

俺は言った。声が震えないように、腹から出した。

「やります。俺が大将軍として、帝国軍をまとめます」

重臣たちの視線が刺さる。疑い、期待、侮り、焦り。全部が混ざっている。皇帝だけが頷いた。

「よい。だが覚えておけ。これは栄誉ではない。罰に近い」

「……罰?」

皇帝は、淡々と告げた。

「明朝、教皇領アプリオリが軍を動かしたという報が入っている。規模は――二万」

その数字で、空気が凍った。

俺の脳が、さっきまでの転生テンプレを全部捨てて、現実に戻る。いや、異世界の現実だ。二万。こっちは何人だ。装備は。士気は。指揮系統は。補給は。地形は。

質問が喉まで押し上がったが、俺は飲み込んだ。ここで慌てたら終わる。軍師なら、まず盤面を見ろ。

皇帝は最後に、短く言った。

「レオンハルト。帝国は、お前に賭ける」

賭け。

俺は、笑いそうになった。俺の人生、ずっと“賭け”から逃げてきたのに。

けれど逃げ場はない。ここは城で、俺は皇子で、明朝二万が来る。

……よし。

「盤面を見せてください。地図と、兵数と、要塞の状況を」

俺がそう言うと、側近らしい黒服の男が一歩前に出た。

「既に用意しております、大将軍閣下」

大将軍閣下。

その呼び方が、まだ他人事みたいだった。

けれど次の瞬間、遠くの鐘が鳴った。夜明け前の鐘。戦の鐘。

俺は初めて、この世界で本当に息を吸った。

そして、心の中でだけ言った。

――ニートだったが、クズじゃない。

――生まれる時代を、間違えただけだ。

それを証明する。

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