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損益分岐点ってなに? お金について考えよう7

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第一章 損益分岐点ってなに?

 商売を始めたその日から、いきなり利益が出るとは限らない。むしろ多くの場合、最初は赤字から始まる。店を借りれば家賃がかかり、商品を仕入れれば仕入れ代がかかる。ネットショップでも、サーバー代や販売手数料が必要になることがある。まだ一個も売れていないのに、お金だけは先に出ていく。商売とは少し意地悪なゲームである。

 では、どこまで売れば赤字ではなくなるのだろうか。その境目を表す言葉が「損益分岐点」である。文字通り、損失と利益が分かれる地点だ。売上がそこより少なければ赤字、ちょうどその地点なら利益はゼロ、それを越えると黒字になる。

 たとえば、小さな屋台でたい焼きを売るとする。屋台を置く場所代や設備代などを合わせて、一日に五千円かかるとしよう。そして、たい焼き一個を二百円で売る。これだけを見ると、二十五個売れば五千円になるので、そこで黒字になるように思える。

 しかし、実際にはそう簡単ではない。たい焼きを一個作るたびに、小麦粉、あんこ、砂糖、包装紙などのお金がかかる。仮に一個あたり百円かかるとしよう。二百円で売っても、二百円すべてが利益になるわけではない。一個売るごとに実際に残るのは百円である。

 すると、一日に必要な五千円を取り戻すには、たい焼きを五十個売らなければならない。

 五十個売れば売上は一万円になる。しかし、材料費として五千円かかっている。残った五千円で、屋台の場所代などを払うと、手元に残る利益はちょうどゼロになる。この五十個という数字が、この屋台にとっての損益分岐点である。

 四十九個なら赤字で、五十一個なら黒字だ。

 たった一個の差なのに、五十個を境に商売の状態が変わる。この「境目」を見つけることが、損益分岐点を考える面白さである。

 損益分岐点を理解するときに、最初に覚えておきたいことがある。売上と利益は違う、ということである。

 ニュースなどで「売上百億円の企業」と聞くと、とても儲かっている会社のように感じるかもしれない。しかし、売上が百億円あっても、商品を作る費用、人件費、家賃、広告費などに百十億円使っていれば、その会社は十億円の赤字である。

 反対に、売上が一億円しかなくても、費用が五千万円なら五千万円の利益が残る。

 売上の大きさだけでは、商売がうまくいっているかどうかは分からない。

 これは日常生活でも意外と見落としやすい。たとえば、フリーマーケットで一万円売れたとする。「今日は一万円も売れた」と喜びたくなる。しかし、売った商品を六千円で仕入れていて、出店料が二千円、交通費が千円かかっていたなら、利益は千円しかない。

 一万円という大きな数字に目を奪われると、千円しか残っていないことが見えにくくなる。

 損益分岐点は、その錯覚を取り払う道具でもある。

 では、なぜわざわざ損益分岐点などというものを計算する必要があるのだろうか。

 理由は単純である。「あとどれくらい売ればいいのか」が見えるからだ。

 何も計算していなければ「もっと売らなければ」「もっと頑張らなければ」と考えるしかない。しかし、損益分岐点が分かっていれば「一日五十個売れば赤字ではない」「六十個売れれば千円利益が出る」と具体的に考えられる。

 目標が霧の中から数字になって現れる。

 数字になると、別のことも考えられるようになる。

 たい焼きを一個二百円ではなく二百二十円にしたらどうなるのか。材料費を百円から九十円に下げられたらどうなるのか。屋台の場所代が安くなったらどうなるのか。それぞれの条件を変えると、損益分岐点も動く。

 つまり、損益分岐点は単なる「黒字になる売上」を調べる数字ではない。商売の仕組みを観察するための数字なのである。

 ここで、少し変わった見方をしてみよう。

 損益分岐点とは「借金を返し終える地点」と考えることもできる。

 たい焼き屋は朝、店を開いた瞬間に五千円の赤字を背負っているようなものだ。最初のたい焼きを一個売ると、百円取り戻す。まだ四千九百円の赤字である。十個売れば千円取り戻し、残り四千円。三十個売れば残り二千円。五十個目を売った瞬間、ようやく朝から背負っていた五千円をすべて取り戻す。

 そして五十一個目から、本当の利益が始まる。

 そう考えると、開店直後の売上と、損益分岐点を越えたあとの売上では、同じ一個でも意味が違って見える。

 一個目から五十個目までは、過去の費用を埋めるために働いている。五十一個目からは利益を増やすために働いている。

 もちろん現実の会計では、そこまで単純に一個ずつ区切れるとは限らない。しかし、この考え方は商売の構造を理解するうえで非常に便利である。

 損益分岐点が低い商売は、少ない売上でも黒字になりやすい。反対に、損益分岐点が高い商売は、多く売らなければ利益が出ない。

 たとえば、自宅で一人で始められる仕事なら、家賃や人件費がほとんど増えないことがある。その場合、損益分岐点はかなり低くできる。一方、大きな店舗を借り、何十人も従業員を雇う商売では、何もしなくても毎月多くのお金が出ていく。そのぶん損益分岐点は高くなりやすい。

 ただし、損益分岐点が高いから悪い商売とは限らない。

 大きな工場を建てるには莫大なお金が必要だが、その工場で商品を大量生産できれば、損益分岐点を越えたあとに大きな利益が生まれることもある。小さな商売は安全だが利益も小さく、大きな商売は危険だが利益も大きい、という場合もある。

 ここが面白いところである。

 損益分岐点を見ると、その商売がどんな賭けをしているのかが少し見えてくる。

 家賃の高い場所に店を出すということは「この場所なら、それだけたくさん売れる」と賭けていることになる。従業員を増やすということは「人件費が増えても、それ以上に売上が増える」と考えていることになる。大きな広告を出すことも同じだ。

 商売では、お金を使うことそのものが悪いわけではない。問題は、そのお金を使った結果、損益分岐点を越えられるかどうかである。

 街を歩いていると、さまざまな店がある。席が十席しかないラーメン屋もあれば、巨大なショッピングモールもある。百円の商品を売る店もあれば、数百万円の商品を売る店もある。

 その一つ一つに、見えない損益分岐点が存在している。

 この店は一日何人来れば黒字なのだろう。この商品は何個売れば開発費を取り戻せるのだろう。この映画は何人が見れば制作費を回収できるのだろう。

 そう考え始めると、損益分岐点は教科書の中だけにある言葉ではなくなる。

 世の中の商売の裏側に、いつも存在している境界線なのである。

 そして、この境界線を知ることが、お金について考える最初の一歩になる。売上だけを見て一喜一憂するのではなく、その売上を生むためにいくら使ったのか、いくら残ったのか、どこまで売れば赤字を抜けられるのかを見る。

 商売は、たくさん売る競争ではない。

 最終的に、使ったお金より多くのお金を残す仕組みを作ることである。

 損益分岐点とは、その仕組みが黒字へ切り替わる瞬間につけられた名前なのだ。

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