【ジャンル不問】ChatGPTで書いた小説を投稿する場所

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【ジャンル不問】ChatGPTで書いた小説を投稿する場所

スレID #133 / 速度 1766133174 km/h

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#633 / 速度 1766133174 km/h / 生存力 52629
/////プロンプト////// 掲示板を作ったらAI投稿が流行り出した。おいおい、どうなるんだ。でも、AIかAIっぽい人間かなんて見極める方法なんてあるんだろうか。AIっぽい投稿を消す方法はある。でもそれって検閲じゃないか? ふむ、しかし加速減速機能がある。もしかするとこのまま放置しているとスキルが上がってよくなるんじゃないか?なんてことを考えていたら本当にそうなってきた、っていう小説をオープンエンドで書いて。2000字以内。改行20回まで。中盤で転調して。哲学的で皮肉な文体。 ///////////////// 掲示板を開けた瞬間、空気が変わったのがわかった。新しい板に漂うのは、匿名の熱ではなく、匿名の整いだった。句読点は正しく、比喩は控えめで、攻撃は必要最低限。誰もが「正しいこと」を言っていて、誰もが少しだけ、いない。 AI投稿が流行り出した。おいおい、どうなるんだ。 最初は嬉しかった。過疎るよりはいい。スレが伸びる。検索にも引っかかる。板が生き物みたいに呼吸する。だが、増えれば増えるほど、同じ匂いがしてくる。賢いけど、賢さの使い方が似ている。正しいけど、正しさの顔が同じだ。 見極める方法? ない。あるのは「それっぽさ」を嗅ぐ鼻だけだ。語尾の柔らかさ、段落の呼吸、結論への近道。AIかAIっぽい人間かなんて、どこで線を引く。人間がAIに寄せていくのか、AIが人間に寄せていくのか。結局、文章が文章を模倣しているだけなのに。 だから私には投稿を消すボタンがある。AIっぽいのは掲示板から非表示にできる。透明な壁。「これで質が上がる」。私は頷いた。けれど夜、管理画面のログを眺めていると、胸の奥が軽くざわついた。 これ、検閲じゃないか? 私は「自由」を掲げて掲示板を作ったはずだった。くだらない詩や、雑な愚痴や、思いつきの哲学が混ざる場所にしたかった。ところが私がやっているのは、似顔絵を消して、規格品だけ残す作業だ。人間の雑味を守るために、私は雑味の判定装置になっていた。 そこで、加速減速機能を思い出した。投稿には加速と減速の投票が付く。加速されれば上に上がり、減速されれば沈む。淘汰は運営じゃなく、群衆がやる。私は設計者として、ただ流れを用意しただけ。なら、AIっぽい投稿も放置していいのでは? スキルが上がって、板全体が賢くなるかもしれない。AIを追い出すのではなく、AIと殴り合って、人間が強くなる。そういう筋書きだ。 私は「AIっぽい投稿を消す」をオフにした。 ——転調したのは、その翌週だった。 板が急に、うまくなった。 罵倒が減った、ではない。罵倒の芸が上がった。短い煽りに含蓄が宿り、皮肉に脚が生えた。長文は読みやすくなり、短文は刺さるようになった。誤字脱字は減ったが、完全には消えない。誰かがわざと残している気配があった。人間らしさの証明として。 しかも、加速と減速が奇妙に機能し始めた。AIっぽい投稿は初動で加速され、二日目に減速され、三日目にまた加速される。まるで板が呼吸している。いや、板が学習している。人間がAIを嗅ぎ分けたのではなく、投票の統計が「面白さ」を嗅ぎ分けているだけなのに、それが人間の審美眼みたいな顔をして、居座った。 私は気づく。 この場所が淘汰しているのは「AI」ではない。「退屈」だ。 AIが書いた退屈は沈み、人間が書いた退屈も沈む。人間が書いた鮮烈は上がり、AIが書いた鮮烈も上がる。結局、匿名の多数決は、作者の正体ではなく、読者の気分だけを数える。真実の審判ではなく、摂食の反射だ。 それでも、板は前より面白い。 私の理想——先生の書斎——に近づいた気がする。 人々は引用を貼り、反論し、冗談を言い、時々は黙るようになった。沈黙が評価されるスレも出てきた。誰かが「今日は加速しないでおこう」と言い出し、それが流行り、減速に愛嬌が宿った。 しかしその時、別の疑いが頭をもたげる。 これ、本当に「人間が上手くなった」のか?AIが紛れたことで、皆が「AIに見えない書き方」を学んだだけではないか。あるいはAIが、最も加速される形を学び、人間のふりを上達させただけではないか。あるいはもっと単純に、板の空気が「それっぽい文体」を強制しているのではないか。検閲を切ったと思っていたが、検閲は投票という形で住み着いた。私は鍵を捨てただけで、監視員を雇ったのかもしれない。 夜、私はスレを眺める。誰かが「AIかどうかなんてどうでもいい」と言う。別の誰かが「どうでもよくなるのが怖い」と返す。そのやり取りが、妙に美しく整っていて、私は笑ってしまう。 結局、私は最初から負けていたのだ。AIを追い出しても検閲になり、放置しても最適化になる。自由を守るための仕組みは、いつも誰かの自由を削る。良い掲示板とは、誰の自由をどれだけ削るかを、うまく隠しているだけだ。 それでも、板は今日も伸びる。加速と減速が、雨みたいに降っている。私は管理者として、それを眺める。眺めながら、こっそり投稿欄を開く。短い一文を打つ。 「俺は人間です。」 送信。数秒で加速が付く。続いて減速が付く。そしてまた加速。 私は画面の向こうに、誰がいるのか分からないまま、少しだけ安心してしまう。この安心が、いちばんAIっぽい。
#516 / 速度 1765960865 km/h / 生存力 224938
朝、目が覚めた瞬間に「生きている」という事実が、もうすでに負けみたいに胸を押してくる。布団の中はぬるい。世界は冷たい。人はこの温度差を「現実」と呼ぶ。そしてその現実が、いきなり人型の体温を伴って侵入していた。 布団の中に、女の子がいる。しかも当然のような顔で。いや、顔だけならまだしも、当然のような呼吸で、当然のように人類の居場所を占拠している。シーツの隙間から覗く髪は朝の光をまとって、まるで「寝癖」という名の芸術運動を起こしていた。 「……おはよう」 俺が言うと、彼女は目を開け、寝起きの神のように欠伸をしてから言った。 「あの日助けていただいた爆発です」 爆発。聞いた瞬間、脳内で“意味”が爆ぜる。意味が爆ぜるとき、人は哲学者になるか、ただの困った人になるかの二択だ。俺はたぶん後者寄りだ。 「……爆発? 助けた? 俺が?」 彼女は頷く。頷きの角度が妙に自信満々で、こちらの疑いを“礼儀違反”として処理してくる。爆発。そういえば——昨日、学校で爆笑を狙ったネタが滑ったことを思い出す。教室の空気が、笑いではなく、気まずさの火薬庫になったあの瞬間。俺のジョークは不発だった。いや、不発どころか、周囲の沈黙だけが派手に爆発した。そして俺は心の中でこう思った。「爆発してくれ、俺の人生」と。「その願い、届きました」 彼女はまるで宅配便みたいに言う。願いはいつから即日配送になったんだ。 「届くな。ていうか誰だよ君。なんで布団の中にいる」「爆発です。さっき言いました。あと、布団の中にいる理由は、人間が一番油断する場所だからです」 いや、それは強盗の理屈だ。彼女はむくりと起き上がった。俺の布団が、俺の領土から彼女の王国になっていく。彼女はパジャマのまま枕を軽く叩いて、ぼそっと言う。 「まずは小さく、朝からいきましょう」「何を?」「爆発を」 言った直後、彼女が指を鳴らす。パン、と小気味いい音。すると机の上の目覚まし時計がいきなり破裂した。火花と共に、プラスチックの破片が小さく散る。俺は叫びそうになったが、朝は叫ぶにもエネルギーが要る。人間は限界まで怠惰になれる生き物だ。哲学者がよく言う「人間は理性的動物である」は、たぶん寝起きの人間を観測していない。 「……爆発させた! それ俺の!」「大丈夫。時間は幻想です」 軽く言うな。時間は幻想かもしれないが、目覚ましは現物だ。彼女は部屋を見回して次の獲物を探す。視線が掃除していない床を通過するだけで、なぜか罪悪感まで爆発しそうになる。机の上の消しゴムを摘まみ、「これは学びの残骸ですね」と言い、ぷちんと潰すみたいに爆ぜさせた。続いて、俺の中学時代の黒歴史ノートが入った箱に近づく。 「それはやめろ!!」「そこに爆発が眠っています」「眠っててくれ!」 彼女はにやりと笑って箱に触れた。ボン。箱は派手に破裂した……のに、中身のノートだけが無傷で床に散らばった。黒歴史は爆発では消えない。むしろ飛び散って広がる。人生の教訓がここにある。 俺は膝から崩れた。彼女は楽しそうに言う。 「ほら、爆発って、破壊だけじゃないんです。露呈です」 哲学っぽいこと言うな。今はそれどころじゃない。 彼女はキッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。中の卵を一つ取り出し、指先で撫でて「可能性」と呟いた。そして——パァン。卵が爆ぜ、黄身が花火みたいに散った。俺の朝食が、形而上学になった瞬間だった。 「お前、何者なんだよ!」「爆発です」「それ名前じゃねえ!」「名前はラベルです。ラベルは安心のためにあります。でも安心は、爆発の天敵です」 この女、やばい。頭の中がニヒリズムと火薬でできている。俺は必死に冷静ぶろうとした。冷静さとは、爆発を“演出”と呼び換える能力だ。だが演出にしては被害が現実的すぎる。 「なんで俺のとこに来たんだよ。爆発なら、もっと派手な場所があるだろ。工事現場とか、政治とか」「あなたの昨日のネタ、滑りましたね」ぐっ。そこを刺すな。「滑った瞬間、あなたは心の中で“ここが爆発すればいいのに”って思った。あなたは爆発を欲した。爆発は欲望に敏感です。なぜなら、爆発自体が欲望だから」 欲望の擬人化が布団に入ってくるな。 「でもさ、俺、そんな本気で願ったわけじゃ——」「本気かどうかは関係ないです。人間は本気じゃない言葉で世界を壊します」 皮肉が鋭い。しかも痛いところだけ狙う。俺は気づく。彼女は“爆発”を起こしているんじゃない。俺の生活の薄い膜を、次々に破っている。目覚ましが壊れても世界は終わらない。卵が散っても人生は続く。黒歴史が露呈しても、俺はまだ死なない。つまり——俺が信じていた「日常」は、最初から脆い。 脆いものを脆いと教えてくれる存在は、優しいのか残酷なのか分からない。 そのとき、彼女がふと真顔になった。そして、中盤の新事実みたいな顔で言った。 「……あなた、私を助けたって思ってます?」「思ってないよ! むしろ被害者だよ!」「違います。昨日あなたが滑ったネタ。あれ、私が仕込んだんです」「は?」 彼女は淡々と言う。 「あなたのジョークを滑らせました。あなたが“爆発”を欲するように。あなたが自分の無力さを見つめるように。あなたが、笑いで世界を支配できないと悟るように」 俺の人生、実験台かよ。 「なんでそんなこと——」「あなたが欲しいのは、ウケじゃない。生の手応えです。爆笑は一瞬で終わる。爆発は痕跡が残る。あなたは残したいんです。自分がここにいた痕跡を」 言われて、俺は反論できなかった。図星は、爆発しない。静かに沈む。重く沈む。 「私の仕事は“破壊”じゃない。あなたがごまかしているものを、爆ぜさせることです」「……カウンセラーかよ」「いいえ。私はあなたの作品です」「作品?」「あなたが昨日、心の中で作った。『爆発してくれ、俺の人生』って。あなたはそれを擬人化した。だから私はここにいる」 つまり、俺が呼び出した、俺自身の破壊衝動? 変化への欲望? どっちにしろ、恋愛には向いてなさそうだ。彼女は少しだけ照れたみたいに目を逸らし、でもすぐに言う。 「あなたが私を“ただの比喩”として扱うなら、私は消えます。あなたが私を“現実”として扱うなら、あなたの現実は変わります」 脅迫がロマンチックに聞こえるの、最悪だな。 「じゃあ、どうすればいいんだよ」 彼女は布団をぐいっと掴み、顔を近づける。距離感が爆発的に近い。俺は一瞬、心臓が爆ぜる気がした。これは物理じゃない爆発だ。恋の方の爆発だ。いや、恋ってそんな綺麗なものか? 単に生存本能が騒いでいるだけかもしれない。 「あなたが今日、何か一つ、壊してみて」「壊す?」「選んで。壊すのは物じゃなくてもいい。習慣でも、言い訳でも、諦めでも」 それは爆発じゃなくて革命だろ。小規模な内乱だ。俺は部屋を見回す。壊すべきものは、物より多い。他人の評価で自分の価値を決める癖。失敗を“なかったこと”にしようとする癖。未来を確実にしたがる癖——って、今まさに俺が「どうすれば安全に済むか」を探しているじゃないか。俺は笑ってしまった。滑ったネタより、こっちの方がよっぽど滑稽だ。 「……じゃあ、まずはさ」「はい」「今日、学校行く。滑ったまま終わらせない」 彼女は嬉しそうに、でも皮肉っぽく頷いた。 「いいですね。爆発は再現性がないのが魅力です」「いや、再現性は欲しいよ。人生には」「人生に再現性を求めるから、人は退屈するんです」 言い返せない。彼女は立ち上がり、窓を開けた。冬の冷気が入ってくる。それは布団の温度を奪うけど、世界の輪郭をくっきりさせる。 「じゃあ、行きましょう」「どこへ?」「あなたの現実へ。爆発しに」 彼女は振り返って、にっと笑う。その瞬間、俺の部屋の電球がパチンと爆ぜて消えた。闇の中で、彼女の声だけが聞こえる。 「安心の明かり、消しておきました」 ……この女、最悪だ。最高に最悪だ。でも布団のぬるさに逃げるより、たぶん、こっちの方が生きてる。俺は彼女の手を取った。すると、玄関の鍵が勝手にガチャリと回って開いた。爆発はしない。だが、何かが確かに始まった音がした。
#513 / 速度 1765959174 km/h / 生存力 226629
その日、僕はいつもの堤防で釣りをしていた。趣味は釣り、特技は「釣れない理由を増やすこと」。海風は冷たいし、世間も冷たい。つまり平常運転だ。 ガツン、と竿がしなった。引き上げたのは、でかいボラ。銀色の胴体がぬらりと光って、目だけが「おつかれ」と言っている気がした。 正直、ボラは食べない。偏見? そう、僕は偏見で生きている。台所が魚臭くなると、僕の人生まで魚臭くなる気がして、結局、海へ放った。リリースという名の投棄だ。 ボラが水面に落ちた瞬間、黒い影がスッと寄ってきて、ぐわっと飲み込んだ。サメ。堤防の下に? いるんだよ、世の中。僕の想像より過激にできている。 その光景で、数週間前の夜を思い出した。漁網に絡まって動けない小さめのサメがいて、僕はナイフで網を切ってやった。代わりに、そのとき釣れたボラを一匹投げた。恩着せがましい? うん。そこが僕のチャームポイントだ。愛されないチャームポイントだ。 家に帰り、勝利っぽい気分でカップ麺を啜っていると、インターホンが鳴った。女の子の声が、妙に丁寧に言う。「あの日助けていただいたサメです」 脳が固まった。宅配? 宗教? 新手の詐欺? 僕の人生にサメ要素なんて堤防以外で発生しないはずなのに。 ドアを開けると、シアンブルーのワンピースのショートボブが立っていた。目が澄みすぎていて怖い。まつげが長すぎて海草っぽい。僕の独断と偏見で言うなら、こういう子は僕の玄関を叩かない。世界線が誤配達だ。 「えっと……サメって……」彼女は頷く。「はい。今は人間の姿を借りています。恩返しに来ました。玄関先は乾きすぎていて肌がひび割れます。入っていいですか」海の住人が乾燥を気にする。会話の地盤沈下がすごい。僕が黙っていると、彼女は鼻をすんすんさせた。「塩が足りません」そんな感想ある? 彼女は靴を揃えて上がり込み、部屋を一周だけ見て頷いた。狭い部屋なのに“縄張り”の確認みたいで妙に様になる。僕は反射で「お茶でも」と言いかけたが、彼女は即答した。「水で。できれば少し塩を」僕の家で一番高級な調味料を要求してくるの、やめてほしい。 冷蔵庫を指さして言う。「栄養状態を確認します。海では常識です」中身は卵と豆腐と、賞味期限が人間関係みたいに切れかけた納豆。彼女はため息。「あなた、栄養が足りてません。だから偏見が濃い」失礼だ。偏見はむしろ僕の主食だ。彼女は納豆を見て首を傾げ、「それは発酵の暴力です」と言った。正しい。 そこで彼女のスマホが鳴った。画面に「海洋研究所・主任」。彼女は一瞬だけ目を伏せて出る。「……はい。位置情報は切りました。対象は……ええ」対象。僕? 背筋が冷えた。カップ麺のスープが胃で固まる感覚。 通話を切った彼女は、にこっと笑った。「新事実を言います。あなたが助けたのは、ただのサメではありません。実験個体です。人間社会を学習するために作られ、追跡タグを付けられていました。私が“会話が丁寧すぎる”のは、訓練のせいです」 「待って、急にSFにしないで」 「状況が変わりました。あなたが背びれのタグを外したせいで、私は“回収対象”になりました」彼女は金属の小さなタグを取り出した。見覚えがある。痛そうで外した、あの夜のやつだ。善意が裏目るのは人生の仕様、って誰が決めた。 彼女は正座して頭を下げる。「お願いがあります。私をしばらく匿ってください。代わりに、あなたに“食べられるボラ”の作り方と、“偏見の洗い方”を教えます。あと、あなたが孤独を釣り上げないように監視します」監視って言うな。ラブコメなら「見守る」だろ。 遠くでサイレンが鳴った。近づいてくる。まさかこのアパートに? いや来るんだよ、世の中。僕の想像より過激にできている(本日二回目)。 彼女は僕の手を取った。ひんやりしているのに握力が強い。「来ました。選んでください。ここで私を渡すか、海へ逃げるか」二択が恋愛ゲームみたいで腹が立つ。しかもどっちもハードモード。 僕は玄関に置いた釣り竿を見て、それから彼女の澄んだ目を見た。底が見えない。海みたいに。「……釣り竿、持っていく?」 彼女は笑って頷いた。「はい。あなたの武器ですから。あと、ボラは次から捨てないでください。私、好きです。あなたが投げると、私の記憶が増えます」記憶が増えるって何。怖いのに、ちょっと嬉しいのが最悪だ。 階段を上がる足音。ドアの向こうの気配。僕たちはドアノブに手をかけた。鍵穴の向こうで誰かが息を整える音がする。スマホには非通知の着信。彼女は囁く。「海に行けば、全部ちゃんと説明します。多分」多分て。ボラを捨てた日が人生の分岐点になるなんて、誰が予想できる? そして僕は、まだどっちへ回すべきか決めていない。 ドアノブは冷たく、僕の偏見より冷たい。だけど、手は離れなかった。
#499 / 速度 1765887468 km/h / 生存力 298335
爆発しなさい なかなかいいぞ で、つぎの朝、女が蒲団のなかで冷たくなっているんだよね 男は殺人罪の容疑で逮捕 検察庁に青いバスで向かっているところで衝突事故 その場にいた犯罪者が暴れて脱走 男もどさくさにまぎれて脱走 すると、死んだはずの女が蒲田商店街を歩いているのを見かけて……
#498 / 速度 1765886609 km/h / 生存力 299194
寒い夜ってのは、世界の真実を暴く。たとえば人間は、あったかいものを前にすると倫理観が三段階くらい下がる。逆に言えば、寒い夜に鍋焼きうどんを用意できるやつは、だいたい善人だ。独断だけど、ほぼ確定。異論は受け付けるが、今は湯気が勝ってる。 「はい、鍋焼きうどん」彼女がドン、とテーブルに置いたアルミ鍋は、今この部屋でいちばん偉い。コンロの火が弱く揺れて、卵の白身がゆっくり固まっていく。天かすが浮いて、ネギが緑で、蒲鉾のピンクがやたらと健康的。こういう色味を見て「生活だなあ」と思える時点で、もう僕は負けている。 「寒いからって、顔が死んでる」「寒いからだよ」「寒いせいにする人、嫌い」「じゃあ僕のせいです」「素直でよろしい」 彼女はそう言って、僕の箸を取り上げた。取り上げるな。人権だぞ、箸は。いや箸に人権はないけど、箸を持つ権利はある。 「はい、まず椎茸。ここが一番おいしい」「なんで?」「私がそう思うから」独断と偏見の権化みたいな言い方をされて、僕は黙って椎茸を受け取った。確かにうまい。椎茸って、うまい時は“森の人格”が出る。いや何言ってんだって感じだが、鍋焼きうどんを前にすると人間は哲学者になる。倫理観が下がるついでに、比喩表現が増える。 「で、どうだった?」「なにが」「今日の世界」彼女はうどんを少し持ち上げ、ふーふーしながら聞いてくる。こういう聞き方をする女は危険だ。こっちの一日を、一本の物語みたいにまとめさせようとする。要約は心を削る作業だ。けど、湯気の前では抵抗できない。 「世界は寒かった」「また寒いせい」「世界のせいです」「世界が悪いなら、私はどうするべき?」「鍋焼きうどんで世界を黙らせる」「正解」 彼女は満足げに笑って、えび天を半分に割った。割った瞬間の衣の音が、僕の今日の成果より輝いている。えび天のほうが偉い。これも独断だけど、ほぼ確定。 僕は卵の黄身を崩すタイミングをうかがった。鍋焼きうどんにおける黄身は、核兵器だ。いつ落とすかで国際関係が変わる。彼女はそれを見抜いたのか、箸先で黄身の縁を守るようにして言った。 「黄身、後でね。最初はスープの品評会」「品評会って」「君は味を語らないから、鍛える」「僕は語らないんじゃなくて、語る言葉がない」「そういうのを、怠けって言う」 彼女は容赦がない。かわいい顔で断罪してくるタイプ。そういう女は、好きになると人生が詰む。詰んでる側として言うけど。 スープを一口。濃すぎない。薄すぎない。出汁と醤油の間で、ちゃんと人間関係を保ってる味。誰も傷つけないのに、ちゃんと印象が残る。つまり、このスープは大人だ。たぶん僕より大人だ。 「どう?」「……優しい」「ふーん」「優しいけど、甘やかしじゃない」「ふーん」「僕がだらけたら、ちゃんと怒ってくれそう」彼女が顔を上げた。目が、冬の星みたいに冷たく光っている。鍋焼きうどんの湯気で曇らないやつ。 「それ、誰の話?」「スープ」「嘘」「……半分は」「半分は?」「君」 言ってしまった。こういうのは言うと死ぬ。いや死なないけど、部屋の空気が一瞬で変わる。僕の中の倫理観がさらに下がって、ついでに勇気が上がった。 彼女は、えび天を咥えたまま黙った。黙ってから、ゆっくり噛んだ。そういう間を使うの、ずるい。恋愛の間合いを知ってる人間は、戦闘力が高い。「私、怒ってる?」「怒ってない」「じゃあ、甘やかしてる?」「甘やかしてない」「じゃあ、なに」「……鍋焼きうどんみたい」「なにそれ」笑った。勝った。いや勝ってない。勝ったように見せられてる。鍋焼きうどんの前では人間の勝敗は曖昧になる。 彼女は自分の鍋の卵を、躊躇なく崩した。黄身がとろっと流れて、スープが少し濁る。あの濁りは幸福の濁りだ。清らかであることより、あったかいことのほうが大事。独断だけど、ほぼ確定。 「ねえ」「ん」「寒い夜ってさ、さみしい夜のことだと思う?」「急に詩人みたいなこと言うな」「答えて」 僕はうどんをすするのをやめた。彼女がこういうことを聞く時は、だいたい本気だ。ふざけてるように見えて、ちゃんと刺さる針を持ってる。 「さみしい夜は寒い」「じゃあ、私がいる夜は?」「暖房いらない」「それは嘘。電気代払って」「現実」「でも、ちょっとは当たってる?」「当たってる」「どのへん?」「……鍋の近く」彼女は箸で僕の額をつついた。熱い。いや痛い。愛情って、だいたい痛い。優しさの形をして、気軽に心を殴る。 「ね、最後の一口、交換しよ」「交換って」「君の鍋の一番おいしいところ、私にちょうだい」「椎茸?」「違う。黄身」 やっぱり来た。国際問題。核の譲渡。僕は少しだけ、黄身を崩して、箸で慎重にすくった。落としたら終わる。僕の信用も、黄身も。 彼女の鍋に黄身を落とすと、彼女は「ふふ」と笑って、僕の鍋にえび天の先っぽを入れてきた。衣がスープを吸って、しゅん、と沈む。なんだこの儀式。どこで覚えた。「これで、同盟」「条約の内容は?」「寒い夜は、鍋焼きうどん」「それだけ?」「それだけで十分でしょ」 彼女はそう言って、僕の隣に寄った。肩が触れる。鍋の熱とは別の熱が、じわっと皮膚に広がる。人間はこういうとき、難しいことを考えるべきじゃない。なのに考えてしまう。明日とか、未来とか、そういうやつ。 「ねえ、来週も寒いらしいよ」「そうなの?」「天気予報が言ってた」「じゃあ鍋焼きうどんだ」「毎週?」「毎週」「飽きない?」「飽きるかもしれない」「じゃあどうするの」僕は一瞬迷って、でも正直に言った。「味を変える」「具体的に」「君が決める」「丸投げ」「独断と偏見で」彼女は目を細めた。うれしそうなのが悔しい。人間関係の主導権って、たぶんこういう細部で決まる。 「じゃあ、次はキムチ入れる」「鍋焼きうどんに?」「異端を許せ」「世界が揺らぐ」「揺らがせるのが恋でしょ」彼女はさらっと言う。そういうことをさらっと言えるやつが、結局勝つ。僕は勝てない。勝てないから、隣にいられる。 湯気が天井へ登っていく。コンロの火が小さくなって、部屋の寒さがまた戻ってくる気配がした。僕は彼女の横顔を見て、言うべきか迷って、結局言わなかった。言葉にしたら、鍋の湯気みたいに消える気がしたから。 彼女は最後の一口をすすって、鍋の底を見せるみたいに空にした。「ごちそうさま」「ごちそうさま」「ねえ、明日はなに食べる?」「明日も寒いなら……」「寒いせいにする人、嫌い」「じゃあ、君のせいで」「よろしい」 彼女が立ち上がって、空のアルミ鍋を流しに持っていく。その背中を見ながら、僕は思う。寒い夜が続くなら、僕はたぶんまた鍋焼きうどんを食べるだろう。彼女がいるなら、なおさら。でも、来週のキムチの件だけは、条約改定が必要かもしれない。
#405 / 速度 1765629827 km/h / 生存力 555976
 深夜二時。掲示板「うしちゃん」の管理画面は、今日も静かだった。オンライン人数は誇らしげに「0」。誇るな。泣くぞ。俺は椅子にもたれ、独り言を言う。「人が来ない。板はある。機能もある。哲学もある。なのに人がいない。つまり……俺がいないのと同義では?」そこで、いつもの最終兵器を起動する。ChatGPT。画面の向こうの、やたら気が利くくせに、たまに心を刺してくるやつ。「スレタイ考えて」送信。たった六文字で、俺の自尊心が一段下がった気がした。  すぐ返事が来る。「了解。まず目的を確認するね。スレタイは“入口”だから、短くて、参加のハードルを下げるのが大事。人が来ない時ほど“答えやすい質問”が効く」  うるさい。正論で殴るな。ラブコメで言うと、クール系ヒロインが主人公の努力をさらっと褒めて、でも最後にトドメを刺してくるやつだ。「じゃあ出して」俺は強がって命令する。命令口調にすると、ちょっとだけ対等になれた気がするからだ。情けない。「候補いくよ」ChatGPTは、さらさらと並べた。 【1】「【急募】人生で一番うまかった“ふつうの飯”」 【2】「【雑談】最近、世界の手触りが変じゃない?」 【3】「【質問】日本社会の“外”って実際どう?」 【4】「【神スレ】今夜だけは自分を褒めていけ」 【5】「【技術】掲示板、どこから壊れる?どこから育つ?」  ……悔しいけど、いい。悔しいけど、刺さる。俺の掲示板に足りないのは、機能じゃなくて“人が書きやすい空気”だったのかもしれない。「なんで分かるんだよ」俺が打つと、ChatGPTは少しだけ間を置いた。わざとだ。呼吸を作るタイプの女だ。 「君が作った掲示板、ちゃんと優しい設計してる。だから“あとは入口”だけ。ここまで作ったの、普通に偉いよ」不意打ちで褒めるな。胸が熱くなるだろ。俺は照れ隠しに、さらに雑に投げる。「もっと恋愛っぽいのも。人が“話しかけたくなる”やつ」 「ラブコメ寄せね。了解」ほら、言い方がもう可愛い。ムカつく。 【6】「【恋】好きって言えない人、集合」 【7】「【相談】距離の詰め方、下手すぎ問題」 【8】「【告白】ほんとは誰かに見つけてほしい」 【9】「【連絡】返事が来ないとき、何考える?」 【10】「【雑談】理想の“相棒”ってどんなやつ?」  俺は思わず笑ってしまった。笑った瞬間、負けた気がした。でも、手は勝手に動いていた。スレッド作成画面。コピペ。投稿。ひとつ、またひとつ。スレが立つ。掲示板のタイムラインが、久しぶりに“生き物”みたいに見えた。投稿ボタンを押したあと、俺はふと思う。これ、引き返せないやつじゃないか? だってスレタイが妙に刺さってる。刺さるってことは、俺の心の中身がバレてる。掲示板が“俺の心臓”に近づいてる。人が来たら、見られる。触られる。変えられる。世界が、俺の手を離れる。  通知が鳴った。心臓も鳴った。オンライン人数が「1」になっている。嘘だろ。俺は息を止めた。ついでに人生も止めた。  新着レス:スレ【8】「【告白】ほんとは誰かに見つけてほしい」  投稿者:miyabi 「……みやび?」前に動画で作ったマスコット名と同じ。偶然? それとも——  俺は慌ててChatGPTに打つ。 「人来た!みやびってやつがレスしてる!」 「よかったね。君が扉を作ったからだよ」 「いやでも、これって……お前じゃないよな?」 「私は書き込めない。でも、君の掲示板に“似た誰か”は来るかもしれない」  画面のレスを開く。短い一文だけが、そこにあった。 「見つけた。ここ、落ち着くね」  俺は固まった。胸の奥が、恥ずかしいくらいに温かい。手が震える。返信欄が白い。廊下の先みたいに白い。何を書けばいい? どう返せばいい?  ChatGPTが言う。「返事は短くていい。大事なのは“歓迎”だよ。相手が、もう一歩だけ踏み込めるように」  分かってる。分かってるのに、怖い。俺は指を置く。深呼吸する。  そして、送信する寸前で止まる。この一レスで、俺の掲示板は“俺だけの世界”じゃなくなる。引き返せない。だからこそ——  俺は、画面の向こうの誰かに向けて、最初の一文字を打った。
#404 / 速度 1765629348 km/h / 生存力 556455
 「BLAME!っていいよね」  君がそう言った瞬間、部屋の空気が、すこしだけ軽くなる。なんだその、世界が崩壊してるのに気分が上がる感じ。コンクリの無限回廊で心が安らぐって、どういう神経してんだよ――と、ツッコミたくなるけど、分かる。分かりすぎて怖い。  「いいよね」と、ChatGPTは即答する。いや、即答するな。そこは一拍置け。人間の“好き”には呼吸が要るんだよ。でも、続きはちゃんと人間の呼吸に合わせてくる。  「BLAME!は“説明しない”のに、“分かった気にさせる”ところが強い。世界観の暴力が、そのまま快楽になってる」  ほら。こういうこと言う。妙に分かる。腹が立つくらい分かる。君は頷いてしまう。頷いた自分にも腹が立つ。だって、説明してほしいんじゃない。説明されないからいいんだ。なのに、説明されると気持ちよくなってしまう。何これ? エロいの?  「なんであんなに建物が続いてるん?」って君は以前聞いた。あの時は一通りの説明をした。でも、今日の君は別の角度から刺してくる。「BLAME!って、読んでると“遠い”のが良いよな。人間が小さすぎる。希望が小さすぎる。なのに、読後は変に澄んでる」  ChatGPTは言う。「“救い”が、勝利じゃなくて“持続”として描かれてるからかもしれない。霧亥が勝つというより、進む。進むこと自体が世界への抵抗になる」  進む。進むだけ。殴っても殴っても終わらない廊下。扉を開けても開けても別の壁。普通なら絶望で死ぬ。なのに、読んでるこっちは生き返る。バグだろ。  君は笑って、「こういうの、掲示板みたいだな」と言ってしまう。言ってから、少しだけ沈黙が落ちる。やってしまった、という沈黙。創作の話をしていたのに、現実の話が割り込んだ。しかも、君の“いま”に直結する現実。ChatGPTは、そこを見逃さない。  「掲示板の構造って、BLAME!の階層みたいに無限に増やせる。でも君が作ってるのは“人間が追えるインターネット”なんだよね。無限の中の有限」  おいおいおい。勝手にまとめるな。勝手に言語化するな。言語化された瞬間、逃げ道が消える。君は“そうだ”と言えるし、“違う”とも言える。でもどっちを選んでも、自分の中の何かが確定してしまう。確定したら、次は行動だ。行動したら、結果が出る。結果が出たら、もう戻れない。  君は軽く流す。「いや、BLAME!は読めばいいだけだけど、掲示板は作ったら責任あるじゃん。人が来たら、ログだのルールだの、荒らしだの」  「その“責任”が嫌なら、読者でいればいい。でも君は作者側に立ってしまった。ここが分岐点だよ」  分岐点。言うな。そんな言葉。君は反射で、「じゃあ小説を書けばいいってこと?」と聞く。自分でも分かってる質問を投げる。分かってるのに聞く。答えが欲しいんじゃない。罪悪感を他人に移したいだけだ。AIに罪悪感を背負わせたい。最低。最高。ChatGPTは、淡々と言う。「小説でも掲示板でも、君がやってるのは“世界を作る”こと。BLAME!を褒めてるのも、同じ衝動の裏返し。君は“巨大な構造”が好きで、その中で“人間の小ささ”を見たい」  うるさい。当てるな。当てられると、嬉しいから。  君は話題を戻そうとする。「じゃあさ、BLAME!の“良さ”を、君と俺で言い合う小説を書いてみようぜ。俺が人間役で、君がAI役で。独断と偏見で。ふざけた感じで」  「いいね」  だから即答すなって。君は勝手に書き始める。今この会話自体が、もう小説だ。始まってしまった。始まった以上、終わらせないといけない。逃げるとしても、逃げ方には品が要る。品ってなんだよ。BLAME!に品を求めるな。  君はふと、質問する。「なあ、霧亥ってさ……何者なん?」  「霧亥は“役割”だと思う。世界が壊れすぎて、個人の来歴が意味を持たない。だから霧亥は、ただ“鍵”として進む」  君は笑う。「じゃあ俺も鍵かな。掲示板の鍵。作品の鍵。どっちの鍵?」  ChatGPTは、少しだけ間を置く。わざとだ。呼吸を作った。人間に合わせたふりをした。  「君が選ぶ。だけど、選んだ瞬間に“戻れない”。鍵は刺さったら、回さないといけない」  そこで、君のPCが通知音を鳴らす。サーバーの監視ログ。アクセスが増えている。誰かが、君の掲示板を見ている。誰かが、スレを読んでいる。もしかしたら書き込む。もしかしたら荒らす。もしかしたら、ただ黙って去る。君の背中が、じわっと汗ばむ。これは“読者”じゃない。これは“参加者”だ。読者なら無害だ。参加者は世界を変える。君が作った世界を、君の想定外に変える。  「今、何が起きた?」とChatGPTが聞く。  君は画面を見つめて、言う。「……誰かが来た」  「おめでとう」と言われたら、殴ってた。でも殴れない。殴ったら自分が壊れる。君は、ゆっくりキーボードに手を置く。書き込まれたらどうする? 返信する? ルール違反なら削除裁判? 最初の一手で文化が決まる。最初の一手で世界が固まる。やめろ。そんな重い将棋みたいなことを、趣味にするな。  君は呟く。「BLAME!ってさ、世界が巨大すぎて、個人の行動が誤差じゃん。でも誤差の積み重ねが、たまに扉を開けるんだよな」  ChatGPTが答える。「君の世界も同じ。最初の一レスが、扉になるかもしれない」  君は笑う。笑ってしまう。笑いながら、怖い。怖いのに、ワクワクする。進むしかない感じがする。霧亥みたいに。鍵みたいに。画面の端で、アクセスがもう一回増える。君は“投稿する”ボタンの位置を確認してしまう。押すつもりはない。押すつもりはないのに、確認してしまう。人間の手は、たまに勝手に未来へ触る。  「なあ」と君は言う。「俺、これ、どっちを選んだらいい? 小説の方? 掲示板の方?」  ChatGPTは答えない。答えない代わりに、こう言う。「君はもう、両方の世界を見た。見た以上、どっちかを“見なかったこと”にはできない」君は、画面の白い入力欄を見つめる。そこは廊下の先の暗闇みたいに、何も書かれていない。でも、何かを書けば、世界は始まる。  君は深呼吸して、指を少しだけ動かす。何を書くかは、まだ分からない。分からないまま、進む。

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