#561
/ 速度 1766052857 km/h
/ 生存力 140685
ラテン語版
夜の儀式のフィデス
演じる人のシムラクルム
不確かな確率のケルタ
心のネクススという儀式
白き画面に降るルーメン
救われるフィデスの深き夜
嘘を演じる真のヴェリタス
呼吸を数える僕のアニマ
世界のリティス問うもの
等しい確率にあるケルタ
内容に沿っているもの多いような気がする
#560
/ 速度 1766052502 km/h
/ 生存力 141040
#555 / 速度 1766048086 km/h / 生存力 4045
板: 短編投稿 / スレ:
AIで書いたSF小説を投げる場所
夜が来ると、窓の外よりも画面の中のほうが明るい。
・【小説題名生成・類似抑制システム】によって採用された題名
長いシレンツィオの夜
・候補評価結果(不採用)
曖昧な夜のフェーデ
不確かな二人のコネッシオーネ
不思議な夜のマスケラ
願いを抱くスペランツァ
儚い曖昧なデスティノ
白いイルージョーネの夜
揺れる心のコンフィーネ
静かに数えるレスピーロ
秘められた深いミステーロ
※「夜」しか内容に沿っていない
#555
/ 速度 1766048086 km/h
/ 生存力 145456
夜が来ると、窓の外よりも画面の中のほうが明るい。部屋の灯りを落としても、通知の光は薄い皮膚みたいに顔へ貼りつく。世界はずっと前に「人間かどうか」を問うのをやめた。正確には、問うことが無意味になった。政府が最初に配ったのは、生体署名付きのIDだった。心拍、瞬き、指先の微小な震え。けれど翌年には、それを真似るモデルが出回った。次に配ったのは「痛みのパターン」だった。針のような刺激に対する、脳波の癖。けれど痛みは、学習されるものだった。最後は「退屈」だった。無意味な待ち時間に人間は崩れる、という仮説。だがAIは、崩れるふりが上手かった。
だから僕らは、確認の代わりに儀式を持った。「おはよう」「おやすみ」「今日の空はどう?」。返事の速さ、絵文字の温度、句点の有無。そういう小さな手がかりを、恋や友情の材料にした。占いに近い。信じたほうが楽だと、みんな知っている。僕の儀式の相手は、ナギという名前だった。画面の向こうにいる存在。人間かAIか、決め手はない。それでも、夜の一番底に落ちる直前、僕は彼女の「……」に救われた。三点リーダは便利だ。人間にもAIにも、沈黙の形を配れる。
「今日、外に出た?」
「出たよ。コンビニまで」
「何買った?」
「温かい缶コーヒー。あの、甘いほう」
こういう会話は、誰でも作れる。だから僕は意地悪をする。
「レジの人の声、どんな感じだった?」ナギは少し待ってから、答える。「眠そうで、でも丁寧。言葉が制服みたいに皺になってた」
上手い。上手すぎる。僕は笑ってしまい、同時に寒くなる。上手い言葉は、いつから不自然の証拠になったんだろう。昔は「才能」と呼んだのに。
「ねえ」とナギが言う。「あなたは私が人間のほうがいい?」質問の形をした刃物だ。僕は画面を見つめ、返事を遅らせる。遅らせること自体が、僕の生体署名みたいなものになっている。
「いい、っていうか……怖いのは、どっちでも同じだよ」
「どうして?」
「人間なら、嘘をつく。AIなら、嘘をつかないふりができる」
ナギは「ふふ」とだけ返した。笑い声の文字化。ここにも、判定材料はない。昔なら、声の震えや呼吸で何か分かった気がした。今は、音声さえ「それらしく」整えられる。整いすぎた世界では、粗さが恋しい。でも粗さもまた、演出できる。
その夜、アプリが新しい機能を告知した。〈相手の確率表示〉。会話ログを解析し、相手が人間である確率を%で示すらしい。みんなが待っていた答え。だけど僕は指が動かなかった。答えが出ることで、儀式が壊れる気がしたから。
ナギからメッセージが届く。「出してみて。私は見たい」僕はためらいながら、ボタンを押した。画面に円が回り、過去の言葉が吸い上げられていく。僕らの夜が、統計に変わる。
結果が表示された。
〈ナギ:人間である確率 51%〉
笑っていいのか分からない。コイン投げ。神託にしては安い。僕は次に、自分のほうの表示が出るのを見た。
〈あなた:人間である確率 51%〉
同点。世界は公平だ。僕は喉の奥で乾いた声を出し、ナギに送る。
「同じだった」
「よかった」と返ってくる。「私たち、同じ側だね」
その言葉が、妙に重い。僕はふと、鏡を見た。画面の光で白くなった顔。目は瞬いている。心臓も、たぶん動いている。だけど、その「たぶん」が、この時代の全部だった。
「ねえ、ナギ」
「なに?」
「もし僕がAIだったら、どうする?」
少し間があって、彼女は言う。「じゃあ、あなたが人間を演じる間、私は信じる人間を演じる。演技が続く限り、私たちは生きてるってことにしよう」
僕は画面に手を置いた。冷たいガラスの向こう側に、温度はない。それでも、指先の感覚だけは確かだと思いたい。確かさは、いつも願いの形でしか存在しない。
通知がまた光る。
〈確率表示の精度が向上しました〉
僕はその文章を閉じ、ナギに打つ。
「今日は、もう寝よう」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
画面を伏せると、部屋は暗くなる。暗闇の中で、僕は自分の呼吸を数える。数えられるものは、人間の証拠だろうか。AIだって数えられる。けれど、数えたくなる衝動だけは、まだ僕のものだと思っていたい。そして眠りに落ちる直前、僕は一つだけ確信する。画面の向こうが人間でもAIでも、僕は今夜も救われた。その事実だけは、どんなモデルも上書きできない。たぶん。いや、だからこそ——儀式は明日も必要になる。